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「好きなものに好かれるにはどうしたらいいのか」の話

「好きなことをやりつづけるには、好きなことに好かれる必要があるのかもしれないね」
 老人はインドで買ったという食器に、ダージリンの紅茶を淹れてキッチンから戻ってきた。銀の食器がカタカタ鳴る音が、アート作品のたくさん飾られた室内に響く。
「好きなことに好かれる。自分の夢に好かれるってことですか?」
 好きなことを追いかけても、それが全部叶うわけじゃない。人にも夢にも、相性のようなものがある気がする。
「好きな人、叶えたい夢、手に入れたい技術。欲しいものを手に入れるにはどうしたらいいんだろう」
「欲しいものを手に入れるのもいいけどね、その前に欲しいものがあるっていうのも素敵なことだと思うよ」
 老人は銀食器に注いだ紅茶を私の前に置く。私は両手で包むようにカップを受け取る。食器の熱が手のひらに移って温かい。
「欲しいという欲望は、人生を少し、前に進めてくれるものなんじゃないかと思っているんだ」
 老人が紅茶を飲むのに合わせて、私もカップに口をつける。ダージリンの香りが鼻孔に届いた。
「でも、欲しいっていう言葉は、届かないっていう言葉とセットな気もします。手に入ったら、欲しいっていう気持ちはなくなってしまうから」
 何かを欲するというのは、満たされない充足感も合わせて含んでいるのかもしれない。
「好きなものに、好かれるような自分になりたいな。それにはどうしたらいいんだろう」
「相手のことを最大限想像してみたら? なにかヒントが見えてくるかもしれないよ」

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