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自分の全部をかけて空に届いた小さな芽の話

 ある日、富山県の相倉集落で、小さな芽が生まれた。芽が出た時は青空が広がっていたが、ここ最近は秋の長雨が続いている。

「ぼく、おそらをみたいよ」

 雲を見上げた芽が声を上げると、葉の影で雨宿りをしていた老鳥が言った。

「おまえさんには無理だよ。羽がないから空も飛べまい」
「あなたはどうしてハネがあるの」
「ワシか。空に手を伸ばし続けてたら、空が褒美にくれたのよ」

 鳥は、生まれたばかりの芽をからかってやろうと思って言った。

「ぼくも、てをのばしつづけたら、ハネをもらえる?」
「空に見えるほど手を伸ばせば、たぶんな」
「わかった。がんばる!」

 芽は毎日、空だけを見つめて伸びて伸びて伸び続けた。ある日、鳥が再び戻ってくる。

「生一本なやつよ。ずいぶん伸びたな」
「ぼくのぜんぶをかけても、そらにとどきたいんだ」
「ほう、全部とな。おまえの人生の全てを賭けるか?」
「はい」

 鳥は次の瞬間、芽を食いちぎり、空へと飛び去った。

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