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アートいっぱいの部屋で聞いた「行動することで夢から遠ざかってないか考えるといいよ」の話

※まだ20本に達してないのに、20本分の有料noteまとめマガジンをご購入いただいたみなさま、ありがとうございます。制作を続ける励みにすごくすごくなっています。みなさまへの感謝を込めて。

 デンマークのアートコレクターさんの自宅で、意味のある人になるにはどうしたらいいかを聞いていた。輪切りのレモンが入った炭酸水を口にすると、爽やかな香りが鼻に届く。

 私と一緒にいることで、周りの人がどんな印象をもてたらいいだろう? アートや自由な生き方への理解がある感じ? 旅が好きな感じ? ふだんからアートのこと、旅先の素敵な出来事とかをなるべく発信できたらいいんだろうな。よし、まずは小さくてもそこから始めよう。

「アートを愛する自由な感じって見られてくれるといいかも。チャレンジする人を称賛するみたいな」
「おお、いいね。素敵な考えだ」
「今日から毎日、アートのこととか旅先の様子をブログに書いて詳しく紹介することにします。フェイスブックやツイッターでも拡散して」
「なるほど。制作は大丈夫なの? アートをつくることに支障は出ない?」
「それもやります。それも毎日やってますし」

 アート制作は最優先事項だ。それはおろそかにできない。海外のアートプログラムへの応募も引き続きやるし、インスタをもっと活用してもいいかも。アートの人だっていう認知をもっと取れたほうがいいんだろうな。世界中の魅力的な町を紹介することもしていきたかった。医療をテーマにした長編小説も書きたかったんだった。
 ちょっとずつ進められるように、毎日これをやるリストをつくろう。アートのアイデア出しもしないと。毎日考える癖をつけておかないと、脳みそはすぐに楽をしたがってしまう。毎日やることとして、ブログを一記事、アイデア出しを三つ、インスタに作品画像をアップ、ツイッターで拡散もしておこうか。
「ちょ、ちょっとメモだけさせていただいていいですか? 忘れちゃいそうで」
 私はスマホを出し、今考えたやることリストをメモ帳に書き留め始める。

 やることを考えるのは気持ちがいい。それだけで前に進んだ気もする。行動しないと何も始まらないっていうのはよく聞くことだ。みんな行動ができないんだと。毎日やることを決め、確実に行動していく。世界中で活躍するアーティストになりたい。世界中で出会った実際の町をモデルにした物語を書いて、その町のことを伝えたい。医療をテーマにした物語を書いて、多くの人に読んでもらいたい。
 全部、ちゃんと叶えていくんだ。

「行動しすぎて夢の実現から遠ざかってることもあるの、知ってる?」

 私が必死にメモしてるのを見ていた老人が言った。彼は炭酸水を飲み干し、グラスをテーブルに置く。アート作品がいっぱい飾られている部屋の中で、時間の合っていない壁掛け時計が時を刻む音が響いてる。
 私はスマホを持ったまま老人を見る。行動しないこと、してもすぐやめてしまうのが何も実現できない理由じゃないだろうか。私は行動しすぎの意味がよく分からないでいた。
「行動は、したほうがいいんじゃないですかね。だいたいの人はやれないって聞いたことがあるんですが」
 何もせずに何かが叶ったことなんてあるだろうか。私がデンマークに来るまでにだって、ものすごくたくさんの英語の企画書を書き続けてきたのに。
「行動はしたほうがいいよ。ただ、行動ってやってるだけで進んだ気になっちゃうこともあるからね」
 老人は足を組み直して膝の上に組んだ両手を乗せて話し始める。

「君が一番実現したい生活ってどんな感じだろう? 毎日創作しつづけていられたら幸せ?」
「はい。創るのに十分なスペースがあって、創作だけしつづけられたらいいな。いろんな国を旅して、その経験を題材にしてまた何かを創る。生活のことや将来のことを心配しなくていい状態がいいです。一番は専用アトリエが欲しい!」
「そうかそうか。それなら、行動したことで変わったことにちゃんと目を向けることも大事だよ」
「変わったこと?」

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