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コロナ倒産した僕【5話】タイでタクシーに乗って高速で突然降ろされた話

※この物語はコロナの影響を受けて都内6件目の倒産をした老舗風船やさんの実話をもとに再構成した物語です。1話目はこちら「コロナ倒産した僕が、破産を決意した日のこと

 タイという国のちょっとゆるい感じが僕は好きだ。日本では考えられないようなゆるさがあって、僕はそこに人間らしさみたいなものを時々、すごく感じちゃうんだ。

 昔、タイの島で熱が出て、薬局に行ったことがあった。薬局に着いた時にはもうフラフラで、熱を測ったら40度くらいあった。頭がぼんやりして身体はすごく熱くて、僕はその薬局の主人に病院がどこにあるか聞いたんだ。

「すみません。病院に行きたいんですが、近くにありますか?」
「あるけど、お前、大丈夫か?」
「ダメかも。できたらでいいんですが、病院まで連れてってもらえないでしょうか?」
「…分かった。バイクを出すから待ってろ」

 店の主人はバイクで僕を病院まで運んでくれたんだ。さらに僕が泊まっていた宿に「戻るまでそのままにして欲しい」っていう伝言まで残してくれた。お店の営業時間中だったのに、見知らぬ外国人を助けてくれた薬局のご主人に、僕は今でも感謝している。

 タイはタクシーもフレンドリーだ。人と話すのが好きな僕は、タイに通うようになってからタイ語を覚えた。ヘタクソなタイ語でタクシーの運転手さんに話しかけると、子どもの自慢話なんかを聞かされる。

「うちの子は本当に天才なんだよ」
「町で一番かわいいね」

 運転手さんが満面の笑顔で話す子ども自慢を、なぜか客の僕が「すごい、すごい」と繰り返し言わされる。それがすごく楽しい。

 タイのタクシーは基本的に個人商店だ。会社からお金を出してタクシーを借り、運賃は全て自分のものになるシステムで、免許を持っていれば誰でもできる。道を知らなくてもすぐに仕事を始めることができるんだ。

 都会に出てきたばかりだという運転手さんだと、道を全然知らないから、こっちが道案内することになる。じゃないと永遠に到着しない。悪気があって遠回りしているわけじゃなくて、本当に道が分からなくてウロウロしちゃうケースがけっこうあるんだ。どうしても分からない時は客の僕を残したまま、運転手さんが外に出て人に聞いてることもあった。最近はナビがあるから、そういうのも少なくなってるかもしれないね。

 タクシーといえば、高速の途中で車から降ろされたこともあったなぁ。料金所を過ぎたところで大渋滞していることに気づいて「やっぱりやめたい」って運転手さんにいきなり言われたんだ。高速の途中だし、こんなところで降りろって言われてもどうしたらいいんだって思うだろう? そしたら彼は、後ろのほうにいたタクシーの運転手さんに僕のことを頼んだらしい。

「すまない。俺の代わりにあいつを乗せてここまで行って欲しいんだけど」
「オーケー、こっちに乗り換えて」

 僕は高速の途中でタクシーを降ろされ、言われるままに高速を歩いて戻ってそのタクシーに乗り換えた。日本だとこういうのは絶対許されないだろうし、すごいクレームになっちゃうと思うんだよね。

 きっちり仕事をしてくれる日本のサービスももちろん僕は大好きだ。いつでも安心して質の高いサービスが受けられるのってすごいこと。でも同時に、他の国の考え方や習慣の違いに触れると、頑張りすぎてた自分がふっとゆるんで楽になることがある。世界には本当にいろんな生き方があって、そのどれも僕は素晴らしいと思ってるんだ。

 ちなみに余談だけど、そこは料金所の手前だったので、高速料金はもう一度払わされることになったよ。

コロナ父さん_v2

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1話目「コロナ倒産した僕が、破産を決意した日のこと」はこちらから。

このお話は、実在するゴム風船屋さんからお話を伺い、小説風に読みやすく脚色した物語です。

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