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「人が攻撃的になるのは苦しんでいる時だからかもしれないね」の話

「彼は一時期、他の人に対してとても攻撃的になっていたことがあってね。それを聞いて、きっとすごく苦しんでいるんだと私は思ったよ」
 老人は手の中の紅茶に視線を移し、友人のアーティストについて語り始めた。作品を創ることができなくなった彼は、そのうち周りの人に当たるようになったのだと言う。
「評価を得たいのに、得られない時期が長く続いてしまって、彼は自分の将来について悩んでしまった。そういうことは、別にアートじゃなくたってあるだろう? 自分の人生全体を考えて、このままでいいんだっけって思うことなんて」
「そうですね。どこでどんな仕事をしていても、たとえばそれがすごく幸せな仕事だったとしても、たまには感じてしまうことなのかも」
 老人はうなずきながら、視線を室内に移す。老人はデンマークに住むアートコレクターで、彼の家の壁には小さなアート作品が壁いっぱいに飾られていた。
「そう。せめて仕事がうまくいっていればいいけど、そうじゃなくなった時、いい結果が出せなくなった時、他の同僚がどんどんすごい結果を出していく時。そういう時は人生を考え直してしまうことってあるよね」
 私はうなずく。人の悩みは果てしない。仕事がうまくいってる時には、プライベートが充実している人がうらやましくなってしまうし、プライベートが調子いい時は、もっと仕事に打ち込むべきじゃないかと焦ってしまう。どこまでいっても悩みが自分を追いかけてくるみたいだ。
「攻撃的になっているっていうのは、どうしてそう思うんですか?」
「苦しくて不安でいっぱいで。そういう精神状態がつづくのは、それだけで辛いだろう? 誰かに助けて欲しいっていう気持ちが態度に出てしまうんじゃないかって私は思ってるんだ」

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