日本最大級のオンラインギャラリー代表に「アートがある暮らしと社会的意義」について聞いてみた
「アートで食べていけるアーティストの数を増やす」ことを掲げ、17年つづくオンラインギャラリータグボート。
徳光さんが代表になったのは12年前です。現在でも積極的に新規取り扱いアーティストの発掘を行っているタグボート代表の徳光さんに、アートにまつわるウラ話を伺って来ました。
今回のテーマは「アートがある暮らしとアートの社会的意義」です。
Ouma(以下、O)「暮らしにアートのある良さ、アートを日常に、みたいなキーワードってよく聞く気がするんですが、暮らしにアートがあるといい点みたいなのってありますか? アートが飾られてる部屋で暮らす良さとか」
徳光さん「特にないんじゃない?」
O「ちょっと待って、いきなり…」
徳光さん「っていうのは、女性と男性でアートの買い方ってけっこう違うんだよね。傾向があるっていうか」
O「へえ、どんなですか?」
徳光さん「今、言ったみたいな、家にアートを飾って楽しむのが多いのは女性のほうが多いね。だから、飾るスペースがなくなったら、それ以上は買わないっていう人も多いと思う」
O「なるほど、男性は?」
徳光さん「男性は収集癖がある人がけっこういて、飾らないけど買い集めたいっていう欲求があるんだよね。私もエクセルでコレクションのリストとかつくってるんだけど」
O「そうなんだ!」
徳光さん「そればっかりじゃないけど、傾向としてね。アートに暮らしをっていうのは、実は男性にはあんまり響いてないのかもしれない。それよりも、とにかく集めたいっていう欲求が強い人が多いよ」
O「そっかぁ、買っても飾らないのか」
徳光さん「アートを暮らしにっていうと、飾らないといけない感じがしちゃうけど、集めるだけでもすごく楽しいんだよ。飾るセンスがないっていう人だっているけど、それでも好きなものを集めるのって十分楽しい。ほら、切手を集めるとか、コインを集めるとか」
O「ああ、そうか。持っていることで満たされるっていうニーズもあるんですね」
徳光さん「そうそう。アートを楽しむのだって、いろんなやり方あっていいからね。男性のほうが飾らないかもしれないけど、リピート率が高かったり、購入単価が高かったりするよ」
O「集めたい欲求っていうのはおもしろい視点ですね。飾ろうとすると、人から見られることとか気にしちゃうかもしれないし。自分のセンスに自信がないと意外とできないのかも」
徳光さん「こっそり持っておくなら、どんなものでも買えるよね。あと、全員が買わないといけないわけでもないし。そもそもアートって、やっぱりお金がある人が買うんだよ」
O「そうなんですか? アートを好きじゃなくても買います?」
徳光さん「たとえばね、アートフェアに美大生とか、アートを好きだっていう人をたくさん呼ぶじゃない。彼らは見るのを楽しむけど作品を買うわけじゃないんだよね。でも、アートがよく分からないお金持ちを呼ぶと、彼らはとりあえず買うんだよ。出せるお金があるから」
O「へええー! 分かんなくても買うんだ!」
徳光さん「そう。だからアートフェアを主催するなら、お金持ちをなるべく連れてこないといけない。彼らはとにかく買ってくれるから。一般の人が買うのはポスターとかグッズのほうが多いんじゃないかな。あるいは低価格の作品。数万円の作品が売れても、マーケットとしてはそこまで大きくなっていかないから」
O「買ってくれる人がいないと、つくり手が生きていけないですからね」
徳光さん「もちろん、一般のアートラバーの力も大事で、そういう人はネットで拡散してくれるとか、業界を盛り上げてくれる。それは絶対、確か。だけど、お金を出してアートを買い集める人も増えてくれないと、アーティストを育てられないからね」
O「そうですね。なんか自分も小さい頃、使わないシールとかを集めまくってたのを思い出しました。アートが暮らしにっていうのは、部屋に飾るばかりじゃなくて、好きなものをコレクションする喜びも含むのかも」
O「機械が人間の仕事を代替できるようになった時代になった。だから、これからはアートが大事だ、みたいなことってよく聞くんですが、アートの社会的な意義について聞かせていただけますか?」
徳光さん「一つのアート作品が世界を変えるみたいなこと難しいって思うのね。それよりも、アートをつくる人たちが増えるっていうことに意義があるって考えてますね」
O「アート作品は世界を変えない?」
徳光さん「うん。作品が訴えてくるものは確かにあるんだけど、ゲルニカがどんなに素晴らしくても、その一作品で世界を平和にするって難しいでしょ。個人の考え方に影響することはあっても」
O「そうですね。モナリザなどの有名作品は観光資源になってそうですが、それでも、電球とモナリザでどっちが世界を変えたかっていうと、電球のほうが世界中の人の生活を変えたかも」
徳光さん「そうだよね。とはいえ、基本的な生活が満たされてくると、根源的な欲求が増えてくる。アーティストは、やりたいことをやる、つくりたい物をつくるっていう根源的な欲求を探求できる人たちだから。人間の根源を追求するというか。そういう人たちが生きられる社会であるっていうことのほうが意義があると思うよ」
O「自分がアートをやっているのもありますが、アーティストとして生きやすい社会っていうのは憧れますね。日本は特に、アートをガチでやろうっていう人にそこそこ厳しい気がするので。アートをやっているって言っても、だいたい仕事なにしてるって聞かれますし、アートでやっていけるって信じてもらいにくい気がするんです。いつ諦めるんだっていう空気を感じながらそれでも続けるのを辛く感じちゃう人もいるんじゃないかなーって」
徳光さん「今なら、田舎に住んじゃえば最低レベルの生活ってできるじゃない。実家なら家賃もいらないし。アートは役に立つモノではないかもしれないけど、アートがないと人は生きられないと私は思ってます」
O「ああ、なんかドイツ政府がアーティストが不可欠だと言ってアーティスト支援してたのを思い出しました」
O「先日、サンフランシスコもアーティスト向けベーシックインカムを始めるって言ってましたね」
徳光さん「ベーシックインカムが導入されたら、アーティストになる人増えると思うなぁ。やっぱり、好きなことをやっている人に、お金をまわしたいよね。アートを創る人にお金がちゃんとまわるようにしたい。そういう流れができると、好きなことをやっていいんだ、好きなことで生きられるんだって考える人が増えて、好きなことをやる人が増えてくる。そういう社会になれば、ストレスがなくなってみんなが生きやすくなるんじゃないかな?」
O「アートで食べていけるアーティストの数を増やすっていうタグボートの理念とも合致してますね」
徳光さん「そうだね。作品単体のインパクトとして、元気がでるとかリラックスできるとかはあるけど、社会全体への意義っていうなら、食べられるアーティストが増えるっていう状態のほうが意義があるよ」
徳光さん「ビジネスっていうことを考えてみると、大昔から商売として成り立ってたのって、美術品なんだよね。美術品を売るっていうのは、昔からある商売の一つ。ただ、美術品は有用性があるものじゃないから、そこまで発展してこなかった」
O「なるほど」
徳光さん「ただ、有用性がない分、アートを買うかっこよさ、みたいなのもあるんだよね。無駄だし使えない。だけどそこがかっこいい。そういう美学を感じる人がアートを買う」
O「確かに、なんかアートコレクターってかっこいいイメージありますね」
徳光さん「アートは億単位のものばっかりじゃないからね。1万円出せば買えるのもある。少額のコレクターもこれからはどんどん増えてくるんじゃないかな」
O「アートを買う人が増えるっていうこと自体が、社会に余裕ができてる証拠なのかも、っていう気がしてきました」
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