差別化が必要な社会は、社会に争いがなくなったことの証明なのかもしれない
山口周さんの著作が好きで、めちゃくちゃ読み漁っています。卒業が慶應義塾大学文学部哲学科ということなんですが、哲学科を大学で選ぶっていうところがなんかすごく老師っぽくてかっこいいです。
中でも『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は、とても濃厚な分析が書かれていて奥深いです。そして分かりやすい。
ものすごくざっくり言うと「世界のエリートがMBAでなく、MFA(美術学修士)を取り始めてるよ、なんでだろう。差別化しないと生き残れない時代になってきてて、アートの力が必要だってことじゃない?」ということを解説してるのが本書です。
機能的には何もかも満たされるような社会になってきたから、差別化できないと企業も生き残れないよね。もうこれ以上、冷蔵庫や電子レンジに機能とかいらないもん。そう思わない?って本書に問いかけられるようです。
機能的なことはロボットがやるようになるし、AIがほとんどの仕事を代替できるようになるとしたら、自分は何ができるだろう。機械でできないことってなんだろう、って考えた時にでてくるのが「アート」です。
アートってなんかふわっとした直感みたいな感じなんですが、アートが大事だよ!と言っているわけではなくて、「アートとサイエンスとクラフトのバランスが大事」って言ってるところがとても興味深かったのです。
アートとサイエンスとクラフトっていうのは、まとめるとこんな感じのことです。
・アート:ワクワクするビジョン
・サイエンス:数値で証明できる体系的な分析や評価
・クラフト:経験に根差した考え、知識
クラフトは過去の経験値、サイエンスはデータで分析できること、アートは直感的なビジョン、といった感じでしょうか。
アートっていうのは理論的に説明できないので、軽視されがちだという問題があります。「なんでiPhoneの中の配線がきれいなほうがいいのよ」と言われて理論的に答えられないと、それで却下されてしまうのって、なんか想像つきますよね。
でも、直感がいつも正しいわけじゃないんです。たとえば直感的に「冷蔵庫がどこにでも移動できるようコロコロがついてるとかわいくていいぞ!」と思ったとしても、冷静に考えたら冷蔵庫って動かなくていいですよね。冷蔵庫が頻繁に動いて欲しいってあんまり思ったことがないはず。
直感的にこれが!と思っても、サイエンス(分析)とクラフト(経験)で微妙だったら、それはあんまりよくないかもしれない。
三者のバランスを考えて企業をほかと差別化し、オリジナリティを高めていこう、というところがとても説得力があるなぁと思いました。やっぱり、アートが好きだとアート至上主義になってしまいがちだし、結果を出さないといけないビジネスの場では理論的に説明できないアートは軽視されてしまうかもしれません。
直感も理論も経験も、自分が生きてきたことが全部、自分の力になってるよって言ってくれてるみたいで、とても嬉しい気持ちになるのです。
差別化が必要な社会について、ちょっと考えてみたのですが、それは「争いがなくなった」世界なのかもしれないなと思ったのです。
戦争の原因として「所有」、「言葉」、「アイデンティティ」、「過剰な愛」がある、と分析した記事がありました。
争いがなんで起こってきたかと考えると、貧しかったからというのが一因としてありますよね。貧しいから誰かから奪うほうが簡単に豊かになれるよねって考えて実行して、実際に争いに勝ってうまく奪えたら、それは本当にすぐに豊かになれる方法だったというわけです。
負けちゃったり奪われる側になっちゃったりすると大変ですが、どちらにしろ飢餓で死ぬかも―っていう感じだったら、ワンチャン争ってもいいかもっていう感じがあったのかもしれません。
それがだんだん、チームを組んで争うようになってきます。奪えるものを多くするために、あるいは負けないために。群れで守りあうためには、群れの共通ルールがあったほうが便利そうじゃないですか? 同じ言語だったり、同じ考え方だったり、共通の敵だったり。
差別化するというのは、共通点ではなく、お互いの違う点に注目するっていうことですよね。差別化が求められる時代を、ほかと違うほうが生きやすくなってきたよってことだと考えると、「仲間」が共通の特徴によって結びつくものではなくなったのかもしれないなと思ったのです。
気がつけば、争わないほうが豊かになれる社会になってきていないでしょうか。豊かさは十分なほどあって、自分で管理できないほどの富もそんなにいらないですよね。
戦わなくてよくなったら、いろんなものがあったほうが生きていくのが楽しい気がします。これからは争うんじゃなくて、みんなでみんなの富と豊かさを増やしていくほうが、全員が幸せの恩恵を受けられそう。
周りの人との違いを見つけて、違いがあったほうが生きやすくなるという社会は、争いの時代が終わって、社会全部が仲間になったってことかもしれない、と考えたのでした。
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