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「恐れに裏付けられた行動は、自分を間違った方向に導いてしまうからね」の話

「怖れというものの本当の恐ろしさを、私たちは意外と認識していないかもしれない」
 老人はカップに鮮やかな色の紅茶を注ぎながら言う。カップが紅茶で満たされるにつれ、室内にはフルーツの香りが広がっていく。
「怖れ、ですか?」
「そう。自分の行動の裏にあるのが怖れなのか、好奇心なのか。怖れが厄介なのは、自分で自分の怖れに気づかないことだ。でも怖れは、自分の人生の真実を静かに覆い隠してしまう」
 口ではうまいこと言い訳したつもりで、実は単に自信がないからやらなかったこともたくさんある。自信がないというのも、たぶん「怖れ」の一つなんだろう。でもどこまでが怖れなんだろう。本当に自分がやるべきじゃないって思ってやらなかったことだってあるはずだ。自分には、その区別がきちんとついているだろうか。
「怖れは人生を覆う夜霧みたいなものだ。霧が晴れれば、人生はもっと晴れやかに切り開かれていくはずだよ」
「どうやったら、自分の怖れをちゃんと認識できるでしょうか」
「自分が自分自身についている嘘を見抜くことだ」
「嘘を見抜く? どうやって?」
 老人は満たされた二つの紅茶のカップのうち、一つを私に手渡しながら言う。
「簡単だよ」

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