「環境を変えられないなら、周りの人がもってる自分へのイメージを変えるといい」の話

「人生を変える一番簡単な方法は、環境を変えることだ」
　老人はそう言って、友人が作ってくれたというケーキを口に運ぶ。ケーキには甘いメープルシロップがいっぱいかけてあって、レモンの酸味が効いた紅茶とよく合う。
「でも、すぐに環境を変えるなんてできないだろう？　そういう場合は、自分にまとわりついているイメージを変えるって意識するといい」
「イメージ？」
「そう。人はみんな、複雑だ。簡単に分かることなんてありえないよ。恋人でも家族でもそうだ。だけど、他人のことはなかなか分からない。ましてや職場でしか合わない人のことなんて」
「そうですね。分かってないけど、なんとなくのイメージで相手を判断してそうな気がします。あの人はこういうことが好きそうとか、これはダメそうとか」
　相手と直接話す機会が少ないほど、イメージばかりが増幅して、コミュニケーションにズレが生じてしまいそうだ。実際にそうやって誤解し合ってしまったこともあった。
「周りが自分に対してどう思っているのか。うーん、聞いても正直には言ってくれないだろうし。自分のイメージって気になりますけど、イメージを変えるなんてできますかね？」
　老人は食べかけのケーキ皿をテーブルに置き、レモンティーのカップを手に取る。それから軽く顎を撫で、口を開いた。