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「伝え方を工夫するだけで知ってくれる人は増えるよ」の話

「知ってもらうかぁ。一回作品を見てもらったくらいじゃ覚えてもらえないし、それだと知ってもらううちに入らないですよね」
「そうだね、記憶に残ってないとしたら、それはその人にとって存在しないのと同じだ。だけどね、ちょっと伝え方を工夫するだけで、覚えてくれる人は増えると思うよ」
 老人はそう言い、テーブルの上のオリーブをつまんで口に入れる。彼はデンマークに住むアートコレクターで、部屋には小さなアート作品がいっぱい飾られていた。
「伝え方ですか? たとえばどんな風に?」
「何かを話し始める前に、相手にどう覚えてもらいたいかを考えるといいんじゃないかと思ってるよ」
「どう覚えてもらいたいか…」
「そう。たとえばすごく才能があるアーティストさと思ってもらいたいならどうする?」
「うーん、自分の経歴のうち、なるべく大きなことを言いますかね」
「作品の展示機会が欲しいと思ったらどうする?」
「相手が美術館のキュレーターとかなら、展示映えのするインスタレーションをメインにしたポートフォリオを見せますかね。ギャラリストなら売りやすいキャンバス作品とかを中心に見せるかもしれません」
 自分をどう切り取って話すかによって、相手に伝わる伝わり方はだいぶ変わるよね、と老人は言った。
「顔を見て話せるなら、相手に合わせられるのかもしれません。でも、見知らぬ人に覚えてもらうっていうのは、どうしたらいいんでしょう」

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