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「時代の変化に対応するにはスキルに固執しないことだよ」の話

有料記事ですが、作業配信サイトで配信しながら書いたので、こちらの最後のほうをのぞくと無料で全部読めます。

「次はフランスに行くんだっけ。君の人生は、とても忙しいね。その次は?」
「フランスには一か月だけ。その後、バルセロナの友人の家に寄って、それから韓国です」
「そんな生き方ができる時代になったとはね。楽しい時代になった」
 私はバルセロナの五十代の男性アーティストが、インターネットのある現代がうらやましいと言っていたのを思い出す。昔は海外の情報を探すのも大変だったけど、今はネットで探してすぐにコンタクトすることができるようになった。

「時代の変化が早すぎて、勉強したことが全くいらなくなってしまったり、職業自体がなくなってしまったり。いつの間にか置いてけぼりになりそうですごく怖いですよ」
 変化に対応できなくなった時に、中途半端な年齢だったら。新しいことはどこまで試せるだろう。どこまで受け入れてもらえるだろう。若い人のための挑戦のチャンスはたくさんあるし、若い人を応援しようっていう人も多いはず。ではもし、もう若いとは言えない年齢で時代の変化に飲み込まれたとしたら。
「変化が多いということは、チャンスもまわってきやすいってことだよ」
 老人は新しく淹れ直した紅茶を飲みながら言った。

 デンマークのコペンハーゲンにあるアートコレクターさんの自宅に遊びに来ていた。グレープを食べ終わった後、彼は香りのいい紅茶を淹れて持ってきてくれた。紅茶は鮮やかな赤茶色で、ロイヤルコペンハーゲンの青い花模様のカップに注がれていた。
「変化にうまく乗っていくにはどうしたらいいんでしょう」
 もともと私は安定志向の性格だった。変化を恐れ、一生これで大丈夫って言えるものを求め、どうなるか分からないことには、なるべく手を出さない方だった。
「自分にとって最悪の事態を想像しておけっていう話があったなぁ」
 どんなリスクが起こりえるかを想像して、最悪の状態に陥らないようにしておけば、だいたいのことは大丈夫だって気づけて精神的に安定するとか。

「時代の変化に対応するなら、スキルに固執しないことだよ」
 老人は、いつものように紅茶の香りを味わいながら言った。

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