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「手に入るか分からないものを求めることに夢中になって今あるものの大切さを忘れてたんだよ」の話

「そんな時、母が死んだんだ」

 バルセロナのカフェで出会ったアメリカ人は、ニューヨークに住んでいると言っていた。私の絵はストリートっぽいからアメリカでウケるかもよと言ってくれ、私はちょっと嬉しい気持ちになる。
 彼は生まれも育ちもニューヨークで、ずっと実家に住んでいると言っていた。ニューヨークで生まれ育ったなんてうらやましいと言うと、「僕ががんばったわけじゃないけどね」と彼は笑う。
 若く見えると思ったら、彼はまだ大学生だった。就職をしたくないから、自分でビジネスを興そうと思って、高校生の頃からいろんなサービスを立ち上げてみたけど、どれもうまくいかなかったらしい。
「センスがないのかもね。バイト代もつぎ込んだけど、ぜんぜんだよ」
「まだ若いじゃないですか。やれることもやる時間もいっぱいあると思いますけど」
「僕もそう思ってたよ。実家だったし、学生だからって言い訳もできたし。引きこもって一人でいろいろ作って出して作って出してして。憧れがあったよ、学生起業して成功して、今も活躍してる起業家たちに。好きな起業家はみんなアメリカ人で、僕もアメリカ人だから。なんか自分にもできるんじゃないかって思って。もうちょっと時間があればって思って、大学休学して、そのタイミングで…」

 母の癌が見つかって、余命数か月だと言い渡されたと彼は言った。

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