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『バガボンド』から作家の個性がなぜ「感情」に宿るのかを考えてみた

コルクの佐渡島さんのnoteに、作家の個性は「感情」に宿るということが書かれていました。みんな、できごとを面白くしようとしてしまいがちだけど、自分がどんな「感情」を伝えられるようになるかを意識すると、物語はぐっと面白くなるようです。

エッセイマンガの描き方が書かれたまとめにも、「感情」を表現するのが大事、と書かれていました。

物語を書く時にはいつも、どうやって展開を面白くしたらいいか、みたいなことばかり考えていたけど、なるほど「感情」が大事なんですね。

でも、なんで「感情」に作家の個性が出るんだろう。。?

今回は「感情」が作家の個性である理由を考えてみました!

感情は個人の母語である

結論から言うと、感情がひとりひとりがもっている母国語だからかなと思っています。

『スラムダンク』でも有名な井上雄彦先生の著作に宮本武蔵をテーマにした『バガボンド』というマンガがあるのですが

ストーリー展開は割とゆっくりで、どちらかというと、武蔵やほかの武芸者たちの内面の動き、独白が多めなんですね。

なにかが起こった時に、喜ぶか悲しむか怒るかって、人によってさまざまですよね。まったく同じ状況でも「やったー!」って思う人もいれば、「え、まじショック、、」って思う人もいるわけです。

つまり、感情がその人の性質を表しているわけですが、その場面でそう感じるのか!っていうところに本人らしさが出ているってことです。

たとえば、『バガボンド』だと、武蔵と対峙した武芸者が「こんなに強い者と戦って死ねるとは、、、(満足)」みたいな死に方をけっこうします。

現代で、この気持ちに共感できる人ってあんまりいないと思うんですよね。目の前に日本刀持った人がいきなり来て、強いやつと勝負したいと言いながら斬りつけてきたら、けっこうコワイです。ゲームじゃなくてガチなやつですから。

感情を通じて他者に「伝達」する

ぜんぜん共感はできないですが、武芸者の感情が伝わってくると、気持ちは理解できるんです。「そうか、武芸者として死ねてよかったね」っていう気に、なんとなくなります。殺される側の悲壮感や無念だけでなく、剣の道に生きる者として、本人は満足できたんだなっていうのが、なんか分かる気がしちゃいます。

現代の価値観とぜんぜん違うのに伝わってくるのは、感情が「言語」として機能してるからだなぁって思うんですよね。言語はいろんなことができますが、一つの機能として、自分以外の人に意志を伝えるっていうのがあると思うのです。「太陽」だと言えば「太陽」のことだと分かるし、「月」だと言われれば「月」と分かるのは、言葉になっているおかげです。

感情はもっと原始的な言語として、その表情や振る舞いを通じて、自分が怒っているのか喜んでいるのかを相手に伝えることができます。人間の原始的な言語だからこそ、人類に共通して伝わりやすいんですよね。

初めて行く国で、まったく言葉が通じなくても笑ってれば分かるし、脅そうとしてるなーっていうのも、なんか分かります。

伝わった感情を通じて登場人物に「憑依」する

ミラーニューロンっていうのが脳の機能としてあるんですが、これは誰かの行動を見ていると、その行動を自分がやった時と同じ反応が自分の脳内にも起こる、みたいなやつです。

目の前でコーヒーを飲んでいる人がいて、それを見ていると、自分の脳内でもコーヒーを飲んだ時と同じ反応が起こってる、みたいな感じです。脳内で相手が行動した時と同じ反応が起こってるって、なんか相手に憑依してるみたいだなと思ったんです。

心理学だと、人と仲良くなるテクニックとして、相手の行動をさりげなくマネするミラーリングっていうのがありますね。行動が似ると親しく感じるのかもしれません。

登場人物の視点で物語に入れると「没入感」がある

感情という言語を通じて、相手の気持ちが読み手に伝わると、登場人物が感じている世界を、彼らの視点で見ることができるようになります。

物語の中に自分が本当に存在しているみたいに、その世界を見ることができるというのは、他人の脳の中に入ってるみたいなんですよね。脳を入れ替えて、他の人の人生を生きているみたい。

自分ひとりだったら味わい切れないたくさんの人の人生を、物語を通じて疑似体験することができるところが、私はとても好きです。

まとめ:個性→伝達→憑依→没入感

本人の感じ方はその人次第(=個性)
感情によって個性が読み手に伝わる(=伝達)
登場人物の世界に入り込む(=憑依)
登場人物の視点で物語を眺める(=没入感)

そんなわけで、物語によって感情を描いた場合、読み手を物語の世界に引き込みやすく、その没入感が作家の個性となって読み手に伝わるってことかなと考えました。

アートにも転用できるのか?

アート作品について、ギャラリストの小山登美夫さんが「その絵、いくら?現代アートの相場がわかる」という本の中で、名画と言われる作品は「技術、感情、主題」のどれかが際立っていると言っています。

コンセプトについて考え尽くしてきていましたが、作品そのものから感情が伝わるようにっていうのは、あまり考えていなかったので、伝えたい感情についても意識して制作してみようと思ってますよ!

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