「苦手な人なんていなくて、きっとただお互いによく知らないだけなんだよ」の話
「人間の悩みのほとんどが人間関係だっていう話はよく聞きますけど、人ってやっぱり一人では生きられないものですよね」
食べ物や着るものが、誰かの手でつくられていることは分かっている。それでも、これだけネットが発展した社会なら、まったく誰ともコミュニケーションを取らずに生きるっていうことも可能なんじゃないかとか、ふと思うこともある。
「人間関係、そうだよね。正確には身近な人との関係に悩むんじゃないかって私は思っているよ。ほら、世界の裏側に住む人とちょっと口論したところで、日常にはほとんど変化がないわけだろう?」
老人は私を見ずに答えながら、引き出しから新しい紅茶の葉をいくつか選びつづける。
「あはは、そうですね。だいたいは家庭とか、仕事とかですよね」
「長く連れ添った夫婦でも、本当の心の内はなかなか分からないものだからね」
老人は紅茶の袋を選び取ると、新しいのを淹れてくると言ってキッチンへと向かった。私は室内に飾られたたくさんのアート作品を見ながら、時間の合っていない時計の音を聞いていた。
「どんな場所でも合わない人、苦手な人は一人や二人はいるはず。それはもうそういうもんなんでしょうか。自分の努力でなんとかなるんですかね」
私は紅茶を淹れ直して戻って来た老人に聞く。老人はカップを取るように手振りで示しながら、私に言った。
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