9.20「デザイナーズメイヘム!vol.2〜MoneyFoward vs SmartHR〜」試合結果報告
両雄、並び立たず。
『デザイナーズメイヘム!』は組織やスキル、専門性といった立場の異なるデザイナー同士が舌戦を繰り広げるいわゆるパネルディスカッションイベントである。
一度の試合中に複数のラウンド(トークテーマ)が設けられ、出場選手同士で意見を交わし、打ちのめされたほうが負ける。
第2回となる今回は、早くも企業間の対戦となった。
株式会社マネーフォワードと株式会社SmartHR。ともにBtoB SaaS領域で独自のデザイン組織を擁する組織ではあるが、規模・文化・役割においてその有り様は大きく異なる。
自明、激しい戦いが繰り広げられることにはなったが、そこには企業間を超えたデジタルプロダクトデザイナーとしての普遍性も垣間見えたように思える。
この記事ではそんな当日の内容を記録として残す。
デザイナーズメイヘム!第2回イベントレポート、いざゴング。
選手紹介
赤コーナー:マネーフォワード
選手(パネリスト):松永 奈菜 / Pay事業本部 デザイナー
プロダクトデザイナー。制作会社2社でWebデザイン、クリエイティブディレクションを経験後、マネーフォワードへ入社。サービス立ち上げ段階から『マネーフォワード Pay for Business』のUI/UXデザインを担当。 (X:@matsuuuko)
セコンド(パネリスト):伊藤セルジオ大輔 / グループ執行役員 CDO
デザイン事務所の代表を経て、2020年にマネーフォワードのCDOに就任。以来、経営にデザインを取り入れる、デザイン組織の強化、プロダクトデザイン品質の向上、ブランディングなどに従事。(X:@sergio_ny)
青コーナー:SmartHR
選手(パネリスト):佐々木 勇貴 / プロダクトデザイングループ マネージャー
SmartHRの文書配付機能のプロダクトマネージャーをしたりプロダクトデザイングループのマネージャーをしたりしています。社内では「マーケのfujijun」や「六本木一丁目の島耕作」など二つ名が多いことでも有名。(X:@tyoys00)
セコンド(パネリスト):桝田 草一 / プログレッシブデザイングループ マネージャー
2021年にSmartHRにプロダクトデザイナーとして入社し、従業員サーベイ機能のプロダクトデザインを担当。現在はアクセシビリティと多言語化を専門とするプログレッシブデザイングループを立ち上げて全社のアクセシビリティ推進に従事。(X:@masuP9)
実況席
レフェリー(モデレーター):宮原 功治 / SmartHR VP of ProductDesign
イベントオーガナイザー経験後、音楽スタートアップを共同創業しデザイン責任者を務める。2016年以降、プロダクトデザイナーとして複数社のプロダクトデザインを請け負い、その後freee株式会社でサービス開発とデザインシステムの立ち上げに従事。2019年6月にSmartHRへ入社後、プロダクトデザイングループの立ち上げと、コンポーネントライブラリ『SmartHR UI』のリニューアルを主導。2021年1月現職に就任、現在はメンバーの活躍支援や環境整備も担う。(X:@OujiMiyahara)
解説:猪爪 雄 / マネーフォワード デザイン戦略室デザインプログラムマネージャー
営業からデザイナーへジョブチェンジし、制作会社で3年、事業会社で6年の経験を積んだ後、2018年マネーフォワード入社。一般消費者向けのデザインチーム リーダー、デザイン戦略グループ リーダー、企業向けのデザイン部で副部長を担当。現在は全社横断組織のデザインプログラムマネージャーとして、約100名のデザイン組織づくりを推進する。(X:@inotashikeshike)
第1ラウンド「マネーフォワードは一貫性のある製品をデザインできているのか?」
試合開始のゴングとともに口火を切ったのは青コーナー、SmartHRの佐々木選手。
椅子から勢い良く立ち上がり、「おい!松永!」と対戦相手を挑発的に指差しながら語りだす。
佐々木「マネーフォワード社は来場者のみなさんご存知の通り多岐にわたるプロダクトを展開しているが、果たして一貫性のあるプロダクトを提供できているかと問いたい。
我々SmartHRはデザインシステムやコンポーネントライブラリを充実させることで開発段階でプロダクトの一貫性を担保できる体制を構築している。
マネーフォワード社の場合、そもそも一貫性という観点を重要視しているのかどうか、そこから問いたい。」
開始早々挑戦的かつ演劇的な佐々木選手の態度に、松永選手は「こんな男子校ノリの場に連れてこられて私は困惑しているんだけど…」とやや困惑しながら答える。
松永「一発目から痛いところをつかれた。いまマネーフォワードはビジネス領域だけでも30を超えるプロダクトを提供している状況で、一貫性があるとはいいきれない。」
セルジオ「ぐぬぬ」
セコンドのセルジオ選手からも苦悶の声が漏れるも、松永選手は諦めず反撃に転じる。
松永「マネーフォワードでは最速でユーザーにプロダクトを届けることを重視し、成長してきた。
デザインシステムにも勿論取り組んでいる。しかし、最も大切なのはいかに早くユーザーへ価値を届けるかということ。
逆にSmartHRではデザインシステムがあるがために柔軟性を失っていないか?」
佐々木「なるほど。そこで言う柔軟性とはどんなもののことを言っているか?」
松永「コンポーネントライブラリが開発の制約になったり、ユーザーのためのより豊かな表現の妨げになったりするシチュエーションを想定しての質問である。」
佐々木「それはデザインシステムにこれから取り組もうとしている企業でよくある誤解という認識。
コンポーネントライブラリはデザインの制約ではなく、継続して拡張していくべきもの。
事業の拡大やユースケースの多様化に伴って、ないものは作ればいいという考えのもと運用すべき。
コンポーネントライブラリは柔軟性を奪うものではなく、エントロピーを防ぐためのもの。
なので柔軟性とトレードオフにはならないと我々は考えている」
松永「ぐぬぬ」
マネーフォワード社から再びの「ぐぬぬ」を引き出した佐々木選手。
レフェリーから「今後は“ぐぬぬ”を判定材料とする」との見解が発せられ、満足したように別の論点を投げかける。
佐々木「これまでの議論でマネーフォワード社は一貫性よりも大事にしている考えがあると感じたが、それはなにか。」
松永「大事にしているのは、ユーザーの業務フローに即した最適な使いやすさとわかりやすさ。」
佐々木「それは組織としてどのように担保されるのか?
コンポーネントライブラリが運用されていれば一定の使いやすさを担保できるはず。
しかしマネーフォワード社はコンポーネントライブラリを制約として捉え、それぞれの開発現場でそれぞれのデザイナーが使いやすさを追求している。
この場合、使いやすさの基準や考え方がぶれることはないのか?」
セルジオ「正直ぶれることはある。明確な基準があれば良いが、なかなか言語化までは至っていないのが現状。」
松永「基準となるようなデザインシステムには今まさに取り組んでいるところ。
数年前からプロダクトを併用してくださるユーザーが増え、需要が高まってきた。
ゼロからプロダクトを作っていく際に、デザインシステムを通じて使い勝手が担保されるような仕組みを目指している。」
桝田「ということは、すでに公開されているSmartHR UI(コンポーネントライブラリ)を使えばいいのでは?カラーパレットの変更にも対応しているのですぐにマネーフォワード社にもお使いいただける。」
議論が”一貫性の担保”から”デザインシステムの活用”へと移る中、SmartHR社セコンドの桝田選手よりまさかの提案が発せられる。
マネーフォワード陣営は苦笑まじりに言葉を返す。
セルジオ「それでいうと、我々はSmartHRとは異なった多様なドメインのプロダクトを展開している。
SmartHR社のコンポーネントライブラリも拝見したが、正直我々のユースケースを十分に満たせないと考えている。」
佐々木「ドメイン固有のコンポーネントとはなにか?
組み合わせやグルーピングの粒度の差はあれど、ウェブアプリケーションとして提供している以上、ボタンやテーブルといったウェブコンポーネントに違いはないのでは?」
セルジオ「例えば会計仕分けに適したUIはなにかわかるか?
結局は部分最適しなければならないケースが出てくることになる。なのでより柔軟性の高いライブラリや特注品が必要になってくる。」
佐々木「それは画面や粒度の大きいインターフェースレベルであると考えている。
そうではなく、ボタンなどのコンポーネントレベルでドメインごとに定義しなければならない差はあるとか?」
松永「あるとは思う…あるとは…。でも…。」
松永&セルジオ「ぐぬぬ」
最後はマネーフォワード社の選手2名が声を合わせて「ぐぬぬ」と発したため、試合終了のゴングが打ち鳴らされる。
レフェリー、解説ともに意見は一致したようでゴングのあとすぐさまSmartHRの勝利が告げられた。
第1ラウンド結果:青コーナー・SmartHRの勝利
第2ラウンド「SmartHRはあらゆるタッチポイントまでデザイン責任を負えているのか?」
第1ラウンドの勝利は譲る結果となったものの、覇気の衰えない赤コーナー・マネーフォワード社。
続く第2ラウンドでは一転攻勢をしかける。
松永「SmartHRのプロダクトデザイングループは情報設計に特化した組織だと聞いている。強みに特化しているということは役割を限定してしまっているのでは?
一方、マネーフォワードではプロダクトデザイナーが役割を越境することを歓迎している。
自身もデジタルのプロダクトのみならず、実物のカードや印刷物、果てはユーザーに届くメールの文面に至るまで、すべてのユーザーのタッチポイントをデザインしている。
こういった動きはSmartHRではできていないのでは?」
佐々木「回答のポイントとしては2点あると考えている。
1点目として、さきほど“越境”という言葉がでてきたが、これはSmartHRでもすでにある。
SmartHRの開発チームでは専門職種が自身の職能のみを発揮することはあまり推奨しておらず、“開発チームとして”各職能を保有している状態、すなわち技能的クロスファンクショナルチームになっていくことを推奨している。
デザイナーでも人によってはコードを書いて開発チケットを担当しているメンバーもいるし、プロダクトマネージャーのように振る舞っているメンバーもいる。
2点目として、なぜ我々が“開発におけるデザイン”(=プロダクトデザイン)に限定しているかという話をしたい。
元々SmartHRのデザイン組織はコミュニケーションデザイン領域のデザイナーも合わせてひとつの組織だったが、専門性によって分かれることになった。
私自身は専門性自体を越境するというのは、よっぽどのスーパーマンでない限り難しいと考えている。
建築に置き換えるのであれば、自身は“映える”建築を作ることはできないが、“堅牢な”建築を作ることはできる。同時に、私は自分のできない“映える”建築を作れる人をとても尊敬もしている。
つまり、専門性の違う人を信頼し、任せることで、自身の専門性に特化した組織をSmartHRでは実現できていると言える。」
自身の多様な事業貢献を語った赤コーナー松永選手に対し、青コーナー佐々木選手は“信頼し任せる”体制について語る。
予想外の熱量に「ノってますね」と賞賛を送る松永選手。
佐々木「この話の流れで逆に問いたいのだが、松永選手はさまざまなアウトプットをこれまで出してきている中で、純粋にこれだけは自分がやるべきという軸や核となるようなものはあるのか?
また、自分が色々やっていることによって、なにかスキルで特化すべきものがみえなくなり不安になることはないか?」
松永「不安になることはない。
色々なことに手を出す原動力として、当事者意識があるから。
自分のスキルは二の次で、プロダクトのためになることを優先的にやっている。」
佐々木「なるほど。では例えば、新しく入社してきたデザイナーにスキル獲得やキャリア相談をされた際にも同じことが言えるのか?」
セルジオ「それでいうと、マネーフォワード社もプロダクトデザインとコミュニケーションデザインで専門性が分かれてはいるので、キャリアに即したスキル獲得は可能である。
我々が言いたいのは、本当に良い建築は両方の要素がミックスしたものであるべきなのではないか?ということ。
さきほど信頼して任せるという話があったが、言い換えれば不干渉状態とも言える。SmartHRのコミュニケーションデザイン組織とプロダクトデザイン組織は仲良くできているのか?」
セルジオ選手の不穏な問いかけに会場がざわついた。
壇上のSmartHR側の選手もプロダクトデザイン組織責任者である宮原氏を指差しコメントを求めるも、宮原氏はコメントを拒否しレフェリーに徹する構え。
セルジオ「これまでコミュニケーションデザインとプロダクトデザインの組織分割の話をしてきたが、前提として私はCDOであり両組織を管掌している立場で意見を言っているし、“両方の要素がミックスした建築”についても取り組めている。
一方SmartHRに両組織を管掌する役職者がいないのであれば、その理想状態も目指せないのでは?」
佐々木「それはそう。…(レフェリー宮原を指さしながら)なんでCDOやらないの!?」
桝田「そうだ!答えろっ!!」
議論の矛先が図らずもレフェリーの宮原氏に向かったところで試合終了のゴングが打ち鳴らされる。
予想外の口撃を受けた宮原氏は「全くの私情抜きで」という虚しい前置きのあとマネーフォワードの勝利を告げた。
第2ラウンド結果:赤コーナー・マネーフォワードの勝利
第3ラウンド「マネーフォワードはドメインを理解しながらデザインできているのか?」
レフェリー(の私情)ストップにより、ますます予測不能な展開を見せる本試合。
第3ラウンドでは再び攻守交代し、青コーナー・SmartHRの攻撃で幕を開ける。
佐々木「我々の開発組織にはドメインエキスパートというドメインの専門家が参画しており、開発の意思決定に関わったり、プロダクトへのフィードバックを頻繁に行いながら開発を行っている。
マネーフォワード社ではどの程度ドメインエキスパートが開発参加できているか?」
松永「話を聞く限りはほとんど同じ体制であると思う。
社内の経理メンバーや社労士などがプロダクトへフィードバックを行い、開発チームはユーザー理解を進めながら開発している。
また、会計領域のプロダクトへアサインされるメンバーは入社時に簿記資格の取得が推奨されている。」
佐々木「それ(=簿記取得)は圧力か?それとも自主的な学習にあたるのか?」
松永選手の言葉尻を捕らえた佐々木選手の瞳が怪しく輝く。
松永「経験則から、おすすめをしている。
入社後は徐々に仕事量も増えていくので、時間の制約を考慮すれば入社してなるべく早いタイミングに取っておいたほうが良いという意味。」
佐々木「なるほど。そうなるとマネーフォワード社のプロダクトデザイナーにとって、会計知識は必須項目ということになるのか?」
松永「あるとないとではプロダクトとの向き合い方が全く異なる印象。
自身も入社後しばらくは資格取得せずに業務をしていたが、簿記3級の学習をはじめてからプロダクトの見え方が大きく変わった。」
佐々木「資格取得したということはスキルがアドオンされた状態といえる。マネーフォワード社では資格取得により社内評価が変わることはあるか?」
セルジオ「資格取得自体を評価することはないが、それだけ理解が深まっているのであれば自然と成果に繋がる。」
探るように細かい質問を連打する佐々木氏。
ここでようやくこれまでの質問の意図を明らかにする。
佐々木「資格取得などの手法を通じたドメイン知識の獲得は個人の努力範疇となるが、本来は組織またはマネジメントの責任であると私は捉えている。
マネーフォワード社の事例を聞くに、個々人の知識獲得努力によって個々人のアウトプットや成果がよくなっている状況は理解したが、組織的に支援している様子は見えない。」
セルジオ「さすがにテストなどはないが、業務理解を促すための社内勉強会などがあり、それは全職種のメンバーが利用可能である。」
松永「確定申告時期に会計事務所で業務体験ができる制度もある。」
セルジオ「逆にSmartHR社ではユーザー理解やドメイン理解を測り、評価する基準などはあるか?」
佐々木「それは、SmartHR社にもない…。」
佐々木選手が入念な準備の末に隙をついたかに見えたが、マネーフォワード社の豊富な学習制度に阻まれる。
セコンドである桝田選手は話題を変えようと試みる。
桝田「デザイナーとしては取り扱っているドメインの知識量・業務理解というのはポータビリティの高いスキルではないと思っている。結局現場や開発対象物が変わればまた別の業務理解が必要になる。
それよりも相対したドメインを“キャッチアップする”スキルのほうが重要なのではないか。」
佐々木「それで言うと、SmartHRのプロダクトデザイングループではプユド愛会(=プロダクトのユーザーとドメインへの愛を語る会)という取り組みを行っている。
各デザイナーが自身の担当プロダクトについて他デザイナーへ説明・プレゼンするイベントで、自身の担当していないプロダクトを理解する場としての狙いがある。」
セルジオ「いま我々が取り組んでいるBtoB SaaSという事業領域には先行者としてインストール型のソフトウェアを提供している企業があって、そういった企業ではデザイナーが所属していないことが多かった。
なので、デザイナーが業務ドメインをキャッチアップするという行為や課題感についてはここ数年で発生したものであると捉えている。
ここ数年で発生した課題感である以上、どこまでキャッチアップすべきなのか、どこまで組織的に支援すべきなのか、世の中にベストプラクティスもなくまだまだ模索中なのでは。」
佐々木「この件、どこか進んでる会社さんってあるんですかね?」
非常に有益な議論に佐々木選手の口調も柔らかくなってきたところでゴング。
レフェリーから「イベントのコンセプトが崩れてきている」との指摘が入り、このラウンドはドロー(引き分け)となった。
第3ラウンド結果:ドロー(引き分け)
第4ラウンド「SmartHRはインクルーシブな組織を作れているのか?」
レフェリーストップに続いてドローという結果を迎え、ますます混沌に突き進む本試合。
赤コーナー・マネーフォワード社はここにきて虎の子である必殺のテーマを打ち出す。
松永「SmartHR社のプロダクトデザイングループは現在何名所属しているか?」
佐々木「現在は13名。」
松永「そのうち、女性は何名か?」
佐々木「じょ、女性?女性とは?」
明らかに狼狽え、意味不明の返しをしてしまう佐々木選手。
レフェリーからも「はぐらかさないでください」との指摘を受ける。
佐々木「…1名。」
松永「なるほど。年齢分布は?」
佐々木「…30代後半が過半数。」
松永「明らかに偏っているように見えるが、どういった考えか。」
佐々木「逆にマネーフォワード社はどうか?」
松永「全体の男女比率で言うと、半々。プロダクトデザイナーはむしろ女性の方が多い。
また、新卒採用も行っているので年齢層も幅広い。」
セルジオ「やはり、多様な人が集まる組織は良いと思う。」
佐々木「…。」
これまでのラウンドでは饒舌に語っていた佐々木氏だが、このテーマにきて一気に精彩を欠く。
レフェリーからも「沈黙はカウントを取る」と再度指摘を受ける。
佐々木「…マネーフォワード社の2人が考えるインクルーシブな組織の良さについて見解を示してほしい。デザインを行う組織においてどういった効果があるか?」
松永「社歴やキャリアの幅広さで言うと、育成機会がもてること。
また、自身は家庭をもっているので、同様の境遇の社員が多く働きやすい。」
佐々木「話は少し変わるが、女性比率の課題はプロダクトデザイナーだけではなく、エンジニア職にも同様の課題はある。
我々は一切の性別によるバイアスを持たずに採用活動を行ってきたつもりではあるが、どうしても求めるスキル、つまり、アプリケーションの仕組み理解やコード理解といったスキルを持ったデザイナー候補者の母集団には数的な差がある印象。
ということは、これはもはや関心を持つ機会やスキル獲得機会の差であって、それらを平等に提供しきれていない社会の課題なのでは。」
桝田「それで言うと、社会の課題にプロダクトデザイングループは向き合えていないのでは?
自分が管掌しているプログレッシブデザイングループはプロダクトデザイングループ同様に開発組織ではあるが、所属しているメンバーは女性の方が多い。」
そう語りながら青コーナーに居たはずの桝田選手が突如として赤コーナー側へと歩を進め着席した。なんと裏切りである。
再び狼狽える佐々木選手に対し、数的にも有利を得たマネーフォワードが攻勢をかける。
桝田「性別や年齢といった属性のバランスをよくすることを目的とするのではなく、働く時間や場所といった働き方の多様性に取り組めば自然と組織が多様になっていくという話もある。
応募してくれる方々の母集団は自分たちでは変えられないが、自分たちの働き方の受容性を変化させていくことはできると思う。」
セルジオ「先程社会の課題と言ったが、我々も社会の一部である。
自分たちが多様なひとびとに機会を与えたり育成するというマインドをもつのが全てのスタート。
マネーフォワード社は何年もかけて新卒採用を行い、新卒社員が育っていく文化を作ってきた。
その1社の努力が広がっていけば、社会努力にも必ず繋がっていく。」
佐々木「これは議論ではなく単純な質問なのだが、新卒採用をする以前から意識的に組織内の性別や年齢構成を正常化させようという動きはあったか?」
セルジオ「無理やり数値を正常化させることを目的としたことはない。
会社としては女性リーダーを立てるべき、という論理はあるが、そのために恣意的にリーダー候補をあげることはしてこなかった。
自分たちがやるべきは、性別や年齢に関わらずリーダー職にチャレンジしたいと思える環境をデザインし続けること。」
佐々木「すごくためになった。自分もマネジメント職としてそうした環境作りをしていきたいとここに誓うので、松永選手にリーダー候補として弊社へ来て欲しい。」
松永(苦笑)
試合中にも関わらず、対戦相手を勧誘しだす佐々木選手を見てレフェリーはすぐさまゴング。
ラウンド中、何度もダウンしていたとの見解で会場も実況席も一致し、第4ラウンドは赤コーナー・マネーフォワードの勝利となった。
第4ラウンド結果:赤コーナー・マネーフォワードの勝利
最終ラウンド「どちらの組織のほうがチャレンジできる環境にあるか?」
異例に次ぐ異例の結果を経てようやく迎えた最終ラウンド。
最後のテーマに攻守の指定はなく、両社フラットな立場でのスタートとなる。
開始のゴングとともに口火を切ったのは青コーナー佐々木選手。
佐々木「まず一般論から入るが、マネーフォワード社のデザイナー組織には90名以上のメンバーが所属していると聞いている。
通常90名以上の組織ともなると、ガバナンスを聞かせていく必要があるためチャレンジするには窮屈な部分もあるのでは?」
松永「マネーフォワードにはチャレンジシステムという制度がある。
マネーフォワードの社員はこの制度を活用してどの部署にも異動することができる。
自分も元々は会計領域のプロダクトを担当していたが、この制度を活用して決済領域のプロダクトへチャレンジすることができた。
また、最近では新しいカルチャーも追加されている。
“Evolution”と題されたそのカルチャーには、自身の変化を促す内容が記されている。」
セルジオ「組織が大きくなるにつれて、一定サイロ化していったり当事者意識が希薄になることはある。
我々はそれに先手を打っていきたいと思っており、その打ち手のひとつとしてカルチャーの追加がある。
スタートアップとして“進化する”ことは当然のことではあるが、それを忘れないためのカルチャー。
また、社内スタートアップも豊富にあり、それぞれの領域において従業員がチャレンジをすることが根付いている環境と言える。」
桝田「それは果たして根付いていると言えるのか?
チャレンジが足りなくなる未来を見越して先手を打っている状況というのは、常にチャレンジが足りない状況が予想されているということでは?」
セルジオ「そんなことはない。
マネーフォワードは急速に拡大し続けている組織。毎年何百という単位で従業員も増えている。
そのレベルのスピードで成長をしているので、先手を打つべきタイミングも早いほうがいいということ。」
佐々木「マネーフォワード社もSmartHRももうスタートアップと一口にはいえないほど大きな会社になっている。
“いろんなことに関われる”や“越境の機会が得られる”といったようなスタートアップ特有のチャレンジ機会の提供のみでよいのかは疑問。むしろ、大きな組織だからこそできるチャレンジの機会を提供しなければいけないのでは。
例えば、まだ日本で事例がない領域や誰も成し遂げていないようなこと。そうした大きな組織ならではのチャレンジ機会こそが我々が提供すべきなのでは。」
大規模な組織であるにも関わらずまだまだ多様なチャレンジの機会を有するマネーフォワード社に対し、チャレンジの規模を変化させるべきという持論を繰り出す佐々木選手。
赤コーナー・マネーフォワード側の両選手もこれには「すばらしい考え」と賞賛を送った。
しかし対戦相手から賞賛を受け取った佐々木選手は「このラウンドを綺麗に終わらせる気はない」と前置いて再び議論に火をつけようと試みる。
佐々木「今日対戦している我々の役割はメンバーへチャレンジの機会を提供すること。
松永選手はさきほど自身のチャレンジについて語っていたが、他のメンバーへチャレンジ機会を提供した事例などはあるか?」
松永「マネーフォワードは新卒のデザイナーへのサポートが手厚い。トレーナーが専属でつき、様々なチャレンジの支援を行っている。」
セルジオ「チャレンジにもレベルがあると考えている。
マネーフォワードのグレード(=等級)には要件とともに提供すべき成長機会やチャレンジ項目が記載されているので、適切なタイミングで適切な機会を提供することが可能となっている。」
佐々木「等級とチャレンジ項目が紐づいているとどこかで打ち止めが発生するのでは?
“CDOであらせられる”セルジオ選手は等級においては頂点に近い位置にいると思うが、いまどんなチャレンジができているか?」
佐々木選手により再燃しだす議論。
皮肉を込めた先の問いかけが効いたのかセルジオ選手は「イジワルですか?」と呟くも、レフェリーからは「そういうイベントである」と一蹴される。
セルジオ「…チャレンジでしかないと思っている。
いまマネーフォワードの開発組織はグローバル化しており、来年末にはエンジニア組織の公用語は英語になる。
自身も国内だけのCDOとしてだけではなく、グローバルのCDOとしての変化が求められている。
組織がどんどん成長していく中、人の成長は自然とついてくるものではないのでどんなプレイヤーにもチャレンジが求めらることにはなる。」
桝田「会社の文化としてチャレンジや変革を推奨していくことは、マネーフォワードでもSmartHRでも同様なのだなと理解した。
しかし、チャレンジや変革を推奨しても、それについて行けない人も組織には一定数出てくるのでは。
その場合、マネーフォワード社ではどのように対応しているのか?」
セルジオ「具体的な取り組みはないが、結局失敗を許容するしかないとは思う。
チャレンジ自体をしやすいように、また、失敗しても再チャレンジできるように、会社として失敗しても受け止めるという考えが大前提なのでは。」
佐々木&桝田「なるほど〜。」
セルジオ「先程からマネーフォワードの話ばかりになっているので逆に問いたいのだが、佐々木選手はいまチャレンジできているか?」
先の議論のはじまりとは一転して、今度はセルジオ選手が佐々木選手へ挑発的に問いかける。
佐々木「な、なんだとこのやろーーー!?」
一体何が琴線に触れたのか、赤コーナー・マネーフォワード側へ物理的な攻撃をしかけようとする佐々木選手。
突然の暴挙に出た佐々木選手をセコンド桝田選手が羽交い締めにする。
壇上で謎の茶番が繰り広げられ、ここでゴング。
実況席はうんざりした様子で今回の試合を無効にすると結論付けた。
最終ラウンド結果:無効試合
終わりに
イカれてやがる。全くもってイカれてやがる。
俺のことではない、『デザイナーズメイヘム!』のことだ。
前回観客をヒヤヒヤさせながら大混乱のまま幕を下ろしたこのイベントは、あろうことか2回目にして他社をも巻き込みやがった。
それもマネーフォワードという俺たちが常に背中を追う超一流のメガ・コーポをだ。
結果から言ってしまえば前回を超える混沌とした試合に、それも無効試合となってしまったが、マネーフォワードにはたしかにヘヴィメタルがあった。
マネーフォワードのデザイン組織は最高だ。
90名以上のメンバーを擁し手厚い育成制度を持ちながらも、常に多様なチャレンジ機会と変化が待っている。
もしも完成した組織と思っているようならすぐに考えを改めたほうがいい。
SmartHR同様、まだまだ成長余地のある無限の荒野なのだ。
もしもマネーフォワードとSmartHRの採用に興味を持ったら、以下のページを見てみて欲しい。
どちらもデザイナー募集中だ。狂おしいほど。
そして、俺たちは次のデザイナーズメイヘム!登壇企業もとい、対戦相手も待っている。
このレポートを読んですでにヘヴィメタルしたくて血管中のクロームが煮えたぎっているそこのお前。いつでも俺たちに連絡をしてくれ。
俺たちはお前のヘヴィメタルを待っている。