虫の音

空に一つ、大きな曲線がひかれて、うねり狂い、雨を降らせた。
あれが、竜だ。

世界が水滴で満たされて、雨音に閉ざされた感覚が全てだと自覚したころ。
それでも夜は明けて、ただ一つ、覚えた振動が呼び起こされた。

虫の音。

あの音は、誰のものだったかわからない。
けれど、ぼんやりと響くその音が、振動の記憶を呼び起こした。
ああ、ここにもあったんだ。
涙が一筋流れて、雨はすでに止んでいた。

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