「そのままでいい」という無償の愛

前の職場を辞めて数日経った頃、母から「そのままでいい」というタイトルの本を貰った。

母から本を貰うのは、それこそクリスマスにサンタの役職を務めてくれていたとき以来で、そこそこに非日常な出来事だった。

そのままでいい

そんなはずはない、と思ったのがまず一番最初。そのままで良いはずがない。世間や社会というのは、当たり前だけど全く優しくなんてない。人間は他人にいくらでも厳しくなれる。

そのままでいいと本のタイトルから伝えられるほど、普段本を買い与えることなどない母に渡されるほど、いまの私はみっともなく惨めな姿だろうか、とさえその時は思った。なんなら今もまだ。

以前読んだ作品に、息子が自殺未遂をする描写があった。
母は意識を取り戻した息子のベッドの傍で「どうしてこんなことをしたの、あなたは私の自慢の息子よ」と泣いた。
息子は「僕が息子じゃなかったら、きっと母さんも僕のことを使えない奴だと思ったはずだ」と言う。これがまさしく私の心情そのものだった。

きっとそういう風に思うのは、あなたがお腹を痛めて私を産んで、ここまで育ててくれたから。私は私のままではいけない。

私が私のままだから、しょうもないことでいちいち落ち込んで、簡単に泣いたりする。

あの本を渡されたとき、パラパラと捲ってみた。読めども読めども、心に響いてくれなかった。
今も私の本棚に置かれてはいるが、それ以来開いたことはない。

背表紙を見るたび、きっとこれが無償の愛というやつなのだな、と思っている。


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