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本命の推しと2番目の推し②2022/02/03

彼女は、私の2番目の推しのファンだった。

最初から私が2推しのことは本命では無いことを、気づいていたように思う。

ヲタクとしての嗅覚に優れ、賢く、ファン同士の人間関係を見極める目が鋭い。
そして背が高く美人だった。

それまで私は長年のヲタ友以外には、自分の事は極力話さないようにしていたが、なぜか彼女には話すことが出来た。

そして彼女は、呆れたようにこう問いかけた。

本命に、好きってちゃんと言ってる?
自分のファンだと本命の推しはわかってるの??

私はそれまで、推しにそんなことを言ったことはなかった。
特典会でチェキを撮り、サインをもらいに行ってるのだから、敢えて言わなくてもファンだと分かってるんじゃないかと。。。

彼女は、それは違うと言う。

あの2人の関係性は微妙で、自分のファンだと確信出来ないからどういう対応をすればいいのか迷ってるのだと。

人気商売とはいえ、仲間のファンを横取りするようなことはしたくないはずだ、と。

本命の推しは、自分は2番手だと思ってるんじゃないか、と。

それは、、、深読みしすぎではないかと思うのだが、彼女はこう言った。

あの人たちは必死なんだよ?
どうやってファンを獲得するか、必死なの。
だからちゃんと、ファンだってことをアピールしてあげないと不安なんだよ。

そんなこと、考えたことも無かった。
新大久保アイドルにとってファンを獲得することは特典会の売り上げに直結するのだから、考えてみればその通りかもしれない。

彼女は美人で行動力があり頭の回転も速く、ヲタクカーストの最上位に位置するような子だった。

どうせなら私のような地味なヲタクではなく、彼女のようなヲタクが自分のファンになってくれた方が嬉しいだろうな、と彼女を羨ましく感じていた。

本命の推しが名前を覚えてくれた時、とても嬉しかったけど、自分がもっと欲張りになりそうで怖くもあった。

だからこそ余計に、2推しを優先するような行動を取っていたのかもしれない。
自分がこれ以上、推しに対して望まないように。

彼女のように自信を持ってファンだと伝えることは、私には出来なかった。

そして彼女は私に何度もこうアドバイスをした。

チェキの順番を変えなきゃダメだよ。
本命を先に指名しなきゃ。

それは、私にはとても難しいことだった。
最初からずっとその順番で撮っていたから、スタッフにチェキを撮るメンバー名を伝える前に、2推しが先に出てくるのだ。
それを変えることは、2推しに悪い気がして出来そうになかった。

だいたい、チェキの順番なんて彼らにはどうでもいいことなんじゃないだろうか。
彼女の考え過ぎのような気がする。

それにもう一つ、順番を変えられない理由があった。
それまで見てきたファンたちの傾向として、2推しから本命の推しに『推し変』するパターンが何度もあった。

今まで2推しとチェキを撮っていたヲタクが、ある日気づいたら2推しではなく本命の推しと撮っていた。
そんなことが何度もあったから、その度に私と友人は胸を痛めた。

またか、、、と。

2推しは完璧なアイドルで、ファンに対して平等でありたいと気を配っているようなところがあった。

そこが長所なのだが、ヲタクたちはそのことに物足りなさを感じてしまうようだった。
他の人と違う対応をされたい、と望んでいるのだと思う。

本命の推しはアイドルとしてまだまだ未熟で、機嫌が良い時と不機嫌な時の対応の差が大きかった。
そこがヲタクは惹かれるようだった。
冷たい対応をされると、逆に執着していくヲタクが多かったように思う。

ある日突然、自分のファンだと思っていたヲタクが隣のメンバーのファンになっている。
現実は残酷だ。

チェキ1枚の値段は安くても、それが回数を重ねればだんだんと負担になる。
仕方ないことだった。

正直言えば、私だって毎回2人分のチェキ代は決して安くない。
だから一回の特典会で、チェキはそれぞれ1枚ずつと決めていた。
枚数を多く撮れば、その分だけ長くサインの時に話せるのだが、私は毎回1枚ずつ。
長く応援し続けるためには、自分で無理なく出せる範囲の金額以上のものは出さないと決めていた。

2推しのファンが鞍替えする度に、私は変わらず2推しを応援しようと強く思った。
それはただの自己満足に過ぎないのに。
どちらにも良い顔をして、自己満足に浸っていたのだと思う。

私は誰か1人に執着したくなかった。
曖昧でいることが心地よく、楽だった。

そうやって長い間、曖昧な態度を続けていた。

③へ続く


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