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推しのせいで終電で降りる駅を間違えた話③ 2022/01/30

ショーボックスの特典会の終盤はメンバー全員の団体サインで、参加者が多い日はとても時間がかかる。

机に横並びに座るメンバーの前にファンが座り、横に移動してサインをもらう形式で、横の人が移動しないと次の人も移動できないから、粘るヲタクが多いと途端に大渋滞となる。

推し以外のメンバーとも話せるのが、団体サインの良いところだ。
気楽に話せるし、友人の推しと話すのも楽しかった。

その日、推しは公演でも個人サインでもいつになくファンサービスをしてくれたから、私はとても楽しい気分で団体の列に並んでいた。

終電の時間を頭に入れて、ショーボックスを出るリミットの時間を逆算する。
今日は人が多くて特典会は日付をまたぎそうだから、最後までは残れないなと考えていた。

自分の順番がきて、メンバーにチェキを渡しサインを書いてもらいながら、公演の感想を伝えた。
大阪公演頑張ってね、と励ます。

メンバーたちは、大阪公演をとても楽しみにしている様子だった。
タコ焼きとお好み焼きを食べたいとウキウキしていた。

推しは団体サインの4番目に座っていた。

少しの間、大阪に行くけど、待ってて下さい。

推しはそう言った。
私は笑って、大阪公演を見に行くねと伝えた。

すごく遠いよ?何時間もかかるよ?と驚いていたが、喜んでくれたようだった。

そして、話を切り上げようとする私を引き止めて、あー…と何かを言いかけて黙ってしまった。

えーと、えーと、、、と言葉を思い出そうとしているようだったが、うまく日本語が出てこなかった。
こんな時、私がもっと韓国語を理解していれば良かったのに、簡単な単語レベルしかわからない。

後ろがつかえてしまうから、私は少し焦って「じゃあ、思い出したら大阪で言ってね」と言って話を終わりにしようとした。

推しは、また私を引き留めてこう言った。

僕は、、ずっとハルさんの名前を覚えてなかったでしょ。



うん、とうなづきながら、私は気が気ではなかった。
左隣のファンがサインが終わって移動したから、私も早く終わらせて移動しないと列がつかえてしまう。

焦る私に推しは小さな声で

でも今は、ハルさんのことが1番**です。

と言った。
声が小さくて、最後の言葉が聞き取れなかった。。。

「今なんて言ったの?もう一度言って」と訊けば良かったけれど、私は頭がフリーズしてしまった。

「ありがとう」
推しにそう言うのが精一杯だった。
(今、何と言ったんだろう、、、)

推しは、下を向いて照れ笑いをしているように見えた。
私も照れくさくなって、じゃあ大阪公演頑張ってねと伝えて隣のメンバーに移動した。

次のメンバーと何を話したのか、私は全く記憶に無かった。
推しが何と言ってくれたのかアレコレ想像しては打ち消した。
気持ちを落ち着かせようとしたが、まるでフワフワと羽が生えたように私は夢心地だった。

終電の時間が近づき、名残惜しかったが駅へと向かった。
友人に今日のことを話した。
私が推しのことを話せる唯一の友人。

友人はキャーキャーと沸きながら、「**」ってきっとこれじゃない?といくつかの候補をあげた。

そんなことを言ってくれたら、最高のファンサービスだと思うけど、私は自信が無かった。
私なんかにそんなことを言ってくれるだろうか。

そして友人は、推しが私の名前を知らなかったことを未だに気にしているのは、最初からずっとファンでいてくれたのに、その存在に気づかなかった自分を後悔しているのかなと言っていた。
私も、今さらそのことを推しから言われるとは思わなかった。。。

新大久保駅で友人と別れ、私は終電に乗った。
途中の乗り換えもスムーズで、後は降りるだけ。

電車に揺られながら、今日のことを思い出していた。
打ち消そうとしても、どうしようもなく顔がにやけてしまう。

公演の時のこと、ワンコの写真のこと、そして最後の言葉。
今日1日があまりにも幸せで、現実ではないような気もしてきた。

それと同時に、推しに対して申し訳なさも感じた。
ずっと私の名前を知らなかったことに、推しは罪悪感を感じていたのだろうか。

手紙を書いたこともなく、名前を伝えたこともなかったのだから知らなくて当然なのに。
私はそんなこと、全く気にしていないのに。

そんなことをグルグルと考えているうちに、大阪公演が始まる寂しさや心配など吹き飛んでしまった。

早く大阪で推しに会いたい。

そしてふと電車のドアに目をやると、次の停車駅の名前が電光表示板に表示されていた。

フワフワしていた頭が覚醒する。

いつの間にか、降りる予定の駅から5つも過ぎていた。

急いでアプリで時刻表を検索したが、反対方向の終電は既に行ってしまった後だった。

諦めて次の駅で降り、タクシー乗り場に向かった。

深夜料金のタクシーは、どんどんメーターが上がっていく。

馬鹿だなぁ、と思いながらも私は幸せだった。
窓の外を見ながら、推しの言葉を思い出してニヤけてしまう口角を手で隠した。

今はハルさんのことが1番**です。

何と言ってくれたのだろう。
きっと、素敵な言葉だったに違いない。
そう信じよう。

推しのせいでタクシー代は高くついてしまったけど、この日のことは忘れられない思い出となった。
幸せな思い出。

家に着いて寝たのは午前3時をとっくに過ぎていた。
3時間ほど仮眠して仕事へ向かった。

大阪へ行く日が待ち遠しかった。




このnoteは過去の思い出の記録として書いています。(時系列はごちゃ混ぜ)

良かったら私の思い出話に付き合って下さい。

名前のエピソードはこちら

グループ名や推しの名前などは伏せます。


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