マガジンのカバー画像

映画鑑賞2024

10
運営しているクリエイター

#映画レビュー

『悪は存在しない』短調の血脈

『悪は存在しない』短調の血脈

 ※ネタバレしています。何を持ってネタバレというべきかわからない作品だけど

 日本の映画監督・濱口竜介監督の2024年作品。
 映画の感想というのは、物語の後から見た立場から最初まで振り返って、最初から知っていたという風に語れるものだけれども、今回は、観ていた時の自分の心の動きになるべく忠実に書いてみたいと思う。
 まずタイトルが出る。EVIL DOES NOT EXIST。タイトルの色使いがゴ

もっとみる
『エドガルド・モルターラ/ある少年の数奇な運命』とユダヤ教

『エドガルド・モルターラ/ある少年の数奇な運命』とユダヤ教

 1858年にボローニャで起きた誘拐事件と、その背後に潜む宗教的対立を描いた史劇。マルコ・ベロッキオ監督。
 私、今回デヴィッド・I・カーツァー著『エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一』(早川書房)という本を読んでから観たんですね。初日初回に。多分、これくらいのテンションで挑んだ人あまりいないんじゃないかと。で、正直なところ、これだけ、自分から前のめりになってこのくらいの

もっとみる
『瞳をとじて』/やや傲慢さを感じた

『瞳をとじて』/やや傲慢さを感じた

 スペインの監督ビクトル・エリセの30年ぶりの作品。
 エリセだと『ミツバチのささやき』('73)はオールタイム級に好きだ。観に行ったことも、新作をリアルタイムで経験することそれ自体が目的という不純な動機があったのも否めない。
 そして観た感想。まず、好きにはなれない。老作家が30年ぶりに撮った映画として、およそ撮ってほしくはない題材だった。過去、映画を撮影していた時に失踪した俳優を探す、という題

もっとみる
『ゴールド・ボーイ』/僕が見たかった沖縄映画

『ゴールド・ボーイ』/僕が見たかった沖縄映画

 見逃さなくてよかった。中国の作家・紫禁陳のクライム青春小説(既読。面白かったです。)を原作に、沖縄に舞台を変えて作られた映画。監督は金子修介。
 沖縄を舞台にしているが、柳島克己の撮影といい、谷口尚久の大仰な音楽といい、全力でこれはフィクションですよと伝えている。「沖縄」で「柳島克己」といえばどうしたって連想してしまうのは北野武監督の傑作『3-4x10月』('90)や『ソナチネ』('93)なわけ

もっとみる
『枯れ葉』/映画は人生を映し取っただの言うと陳腐が実際そうだから仕方ない。

『枯れ葉』/映画は人生を映し取っただの言うと陳腐が実際そうだから仕方ない。

フィンランドの監督アキ・カウリスマキが引退を撤回して作った6年ぶりの作品。引退撤回というと、ケン・ローチのように社会へのメッセージ含んだ作品(『家族を想うとき』のような)と思いきや、そういった要素はありつつも、基本的にはすごく「らしい」メロドラマ。余談だが、社会派的要素としては主人公の部屋にあるラジオから流れるウクライナ戦争のニュースがあるけど、あれ、字幕なしで観ても「ウクライナ」という単語が聴き

もっとみる
『PERFECT DAYS』/小津というよりジャック・タチ。面白かったです。

『PERFECT DAYS』/小津というよりジャック・タチ。面白かったです。

 小津というよりジャック・タチ。確かに、トイレ綺麗すぎだろとか、言いたいことはある。それでもこの映画を嫌いになれない。まず、日常で繰り返される動作がスクリーンで再現されたときの気持ちよさ、これはさすがヴェンダースといった感じで、それだけで充分楽しめる。さて、平山(役所広司)だ。彼は東京を見守ってきた道祖神にも思えるし、セゾン文化の成れの果てという気もする。
 いずれにせよ、ある種のサブカル的に理想

もっとみる
『カラオケ行こ!』/笑いで観客の緊張を解しつつテーマを伝えるこの映画の手法がヤクザ的な交渉術を思い起こさせるし、狂児は映画なのかも知れない。

『カラオケ行こ!』/笑いで観客の緊張を解しつつテーマを伝えるこの映画の手法がヤクザ的な交渉術を思い起こさせるし、狂児は映画なのかも知れない。

やっぱりねえ、この手の作品には弱いわけですよ。まず、聡実が属する合唱部という世界があって、狂児の属するヤクザの世界がある。そのグラデーションの中で、日常の地続きでありながら非日常感がある、という意味ではラブホと双璧の舞台であるカラオケボックスが、中間の世界として現れる。その枠をいかに踏み越えるかというところにドラマがあり、成長がある。また、舞台装置として、大阪の鄙びた風景が最高に機能している。良い

もっとみる
『夜明けのすべて』/PMSとパニック障害の男女の交流という話を聞いて、およそ思いつく劇的な展開をすべて拝し、かつ面白く作っている。

『夜明けのすべて』/PMSとパニック障害の男女の交流という話を聞いて、およそ思いつく劇的な展開をすべて拝し、かつ面白く作っている。

PMSとパニック障害の男女の交流という話を聞いて、およそ思いつく劇的な展開をすべて拝し、かつ面白く作っている。あまり日本の映画を観ている感じがしなかった。『ラビットホール』とか『それでも、愛してる』あたりに近い。
物語のラストである人物が「短い間だけどお世話になりました」と言う時、そんなに短かったっけと思ってしまう。その理由のひとつには、人々の心の機微を映像(境目)で詳細に記述する演出の濃密さがあ

もっとみる