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コレクションのすゝめ

皆さんはモノを集めた経験はあるだろうか。

僕にはコレクター精神がある。どんぐりやシール集めから始まり、仮面ライダーの指人形、ポケモンの缶ジュースについてくるメダル、遊戯王カード、等々、基本的なコレクション科目は幼少期から履修してきた。

学生時代の飲食バイトでも、女将さんに内緒で瓶ジュースの王冠を数キロ近くひたすらに溜め込んだ実績もある。手軽で集め甲斐がありそうなものに出会ってしまったが最後、自分でも歯止めが効かなくなってしまうのだ。

そんな性分を知ってか知らずか、最近ではもう安易にモノを買わないようになってきている。秋葉原の高額フィギュアショップの前を通る度に、修羅の道に進みうる自分のポテンシャルを思い身震いする。

そんな自称コレクターの僕が今、「こいつにだけは手を出したらやばい」と思っているものが一つある。

それは「化粧品」だ。

おそらく多くの男子がそうであるように、もともと化粧品にはなんの興味も無い。デパートの化粧品売り場に対する認識は「白を基調とした、エスカレーターに乗るまでの長めの助走スペース」くらいのもので、とにかく自分と関わりがある世界として見ていなかった。まさしくアウトオブ眼中の状態である。

それでも、生きていれば化粧品売り場へ強制的に連れて行かれる機会が度々訪れる。好きなことだけをやるわけにはいかない。特に自分の家は男兄弟で女性が母親一人ということもあり、幼少期から化粧品売り場のウロウロに仕方なく付き合っていた経験があった。

そんな下地があるからか、大きくなって女性と買い物に行く際も、基本的に抵抗はなく、かといって当然興味もなく、ボーッと付き添うタイプの男だった。

なぜここにいる女性達はこんなにも興味を注げるのだろうか。自分がその魅力を理解できる日は一生来ないのだろうか。人類が本当の意味で分かり合う事など絵空事に過ぎないのか。永遠に感じる時の中でそんなことを考えながら、その日も化粧品売り場を歩いていた。すると、とある展示が目に入った。

「メイベリンニューヨーク 新作リップス 一覧展示」

おいおい…

一体なんなんだ、この輝きは。

当然のことながら、モノ自体の価値はよく分からない。おそらく口紅的な道具を一つ一つ並べて商品のカラーバリエーションをアピールしている展示なのだろう。

しかしそのツルツルとしたメタリックな質感、洗練された流線型のフォルム、手のひらに収まるサイズ感、グラデーション順に横一列で整然と並べられている様……あれ…?もしかしてこれ、実はめちゃくちゃコレクション性能高いんじゃないか!?

それからというもの、コスメゾーンを通過する度に、これまでは見えなかった景色が目に飛び込んでくるようになった。ファンデーション、チーク、アイシャドー、依然として言っている事は何一つわからない。それでも、造形物としての完成度の高さには関心を持つようになった。モノクロだった世界に、彩りが生まれたのだ。

タイミングが合えば、むしろ一人で訪れてみることすらあった。コスメ売り場を通る際は、いかにさりげなく、ゆっくり歩けるかがポイントとなる。「あれー確かこのフロアの奥の角を曲がったところにトイレあったよなあ(キョロキョロ)」みたいな小芝居を打ちながら、できるだけ化粧品売り場での滞空時間を稼ぐ。たまに気が抜けて小芝居の練度に甘さがあると、すかさず店員さんから鋭い指摘を受けてしまう。

「彼女さんへのプレゼントですか?」
「あ、はい!そうなんですよー!」

「コレクションが目的です」とは口が裂けても言えない。

こうなるとつくづく「男で助かった…」と思う。自分がもし女子だった場合、化粧品を買う大義名分を得てしまう。化粧品購入へのハードルが限りなく低まった世界で、無限に広がる化粧品の海に溺れ、文字通り収拾がつかなくなるのだろう。

ブルーアイズホワイトドラゴンの絵違いver.を数種類集めるのとは訳が違う。コスパは二の次、可愛いと思ったものを片っ端から買い集め、一人分の人生では到底使いきれない量の化粧品を所持することになるのが目に見える。

今となっては、秋葉原の玩具屋を歩くのも、化粧品売り場を歩くのも、全く同じ感情を抱いている自分がいる。

付き合わされていた時はあんなに長く感じた時間も、思い返せばそうでもないように感じる。みんなこれが本当に自分に相応しい化粧品かどうか、大海原の真ん中で孤独なジャッジを続けているに違いない。あの程度の時間、かかって然るべきだろう。

持っててよかった、コレクター精神。












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