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「チャージ」という姿勢 〜青春の無限列車編〜

「青春18きっぷ」をご存知だろうか。

みどりの窓口で、一万円くらいで買える切符。これを使えば最大で五日間、JRの在来線に好きなだけ乗ることができる。ちなみに18歳じゃなくても買える。

学生時代、サークルを引退すると時間的にも経済的にもいくらか余裕が生まれるようになった。年末になり、久しぶりに四国にいるおばあちゃんの家に行こうと思った。なるべく安上がりで行くことができないかとリサーチした結果、この切符の存在を知った。

310円の電車賃ですら払えなかった自分にとって、これは産業革命的なアイテムだった。一日中、電車に乗れる。そんな上手すぎる話、本当にあって良いのか?21歳の僕には中々に受け入れ難いシステムだった。

乗り換えアプリによれば、始発に乗ってノンストップで進めば夜の8時に着くらしい。無理に一日でいく必要もないので、行きと帰りでそれぞれ二日間かけていくことにした。好きな場所で途中下車ができるのも18きっぷの魅力だ。

出発当日の朝、期待を胸に始発に飛び乗る。日常的に利用するこの電車で、関東を超え、四国まで行ってしまうのだという非日常感。正直、ワクワクが止まらなかった。前日の夜には『世界の車窓から』を視聴した。イメージトレーニングも完璧だ。

遥かなる旅路が今、始まるのである。

電車の中は基本的にできることが少ない。外を見るか、携帯を見るか、地面を見るか。ナンプレも文庫本も持ってきていない僕は、この三択を延々と回していくことになる。そして外の景色といっても、大体フツーの街中をフツーに走っていくだけなので、そこまで大きな変わり映えはない。

結論、数時間で限界が訪れた。

期待とワクワクを乗せた電車は、関東を出て静岡に突入したあたりで本州縦断耐久レースと化した。電車でも結局、同じじゃねえか。

しかしここでも「きつい=やめたい」ということにはならない。チャージの使い手である僕は、こうなると半自動的に「やめたいけど、やめたくない」という、なんとも迷惑なやる気スイッチが点いてしまうのだ。

僕が18きっぷシステムの異変に気づき始めた頃、東海道線も手のひらを返すように襲いかかってくる。いつまで経っても、静岡が終わらないのだ。

ここからが本番か…。決戦の火蓋が切られた。

それからというもの、さまざまな試練が訪れた。急に止まらなくなる鼻水、イヤホンの片耳ゴム部分紛失、隣でマックのポテトを食べ始める高校生、何故か俺の方を睨んでくるおじさん、シンプルな乗り換えミス、スマホの電池切れ。これが目指す者の苦しみか。

すっかり外も暗くなり、いよいよ地面を見ることしかできなくなってきたタイミングで、電車の旅史上、最大の山場が訪れる。

腹痛だ。

耐久レースを自覚した今朝のタイミングで、この瞬間が来ることは直感していた。絶対に来て欲しくない時に限って、奴は来る。車内ドア上の案内を見る。もうそろ滋賀に差し掛かるところ。四国までの中継地点としては十分だろう。次の停車駅でたまらず電車を飛び出すと、外では雪が降ってきた。今、いらん。

お腹を抱えながら、雪の降る国道を夜に紛れて歩く。

駅のトイレには行かなかった。なぜならそれが僕の「チャージ道」だからだ。陸路を貫くこの勝負、絶対に負けるわけにはいかない。

目指すは快活CLUBという名の天竺。

この試練を超えた先に、全ての答えがあるはずーーーーー











本 日 臨 時 休 業










きつかった経験ほど、

忘れられない思い出となる。
















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