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入門篇(2)

田野大輔(コーナン大学)

棚の奥行

本棚の固定方法を考え、壁面の幅と高さを測って側板と棚板の長さを決め、棚板の間隔も設定した。だがホームセンターに行って木材を購入する前にもう一つ、考えておくべきことがある。本棚の奥行き、つまり側板と棚板の幅だ。これも本来なら収納する本のサイズに応じて自由に決めてよいのだが、実際には後述する理由で、次の2通りのいずれかを選ぶのが得策である。ⓐA5判の本なら184mm、ⓑ四六判・新書・文庫なら140mm(洋書の場合も同様に、単行本なら184mm、文庫本なら140mmとしておけばよい)。A4判の雑誌やファイルなどを収納したい場合はもっと広い幅が必要になるが、それ以外は184mmの幅で収まるので、通常の用途であればこの2通りのいずれかにしておけばまず問題ない。

どうしてこの2通りになるかと言うと、それは本棚の製作に最もよく用いられるのがSPF材(ワンバイ材やツーバイ材)で、その規格サイズに制約されることが多いからである。ワンバイ材は19mm厚、ツーバイ材は38mm厚だが、どちらを使う場合も、板の幅は6インチ=140mmか8インチ=184mmにいずれかに絞られる。板の長さは3フィート=910mm、6フィート=1820mm、8フィート=2438mm、12フィート=3650mmなど様々なものが販売されているので、側板や棚板の長さに合わせて選べばよい。一般的な本棚であれば、棚板には19mm厚のワンバイ材を使えば十分だが、とくに天井高の本棚を作る場合には、側板には強度の高い38mm厚のツーバイ材を使うことをおすすめしたい。

木材の種類

もっともホームセンターで入手できる木材はSPF材以外にもいくつかあり、それぞれの長所・短所を考えて選ぶべきである。本棚の材料に使える木材としては、大きく次の3つのものが挙げられる。①SPF材、②合板、③集成材。上述の通り、このうち最も多くの読者が使うと思われるのが①SPF材である。家の柱に使われるほど頑丈で、値段が比較的安く、ホームセンターでの取り扱いも多いので、DIY用途に何かと便利な木材なのだが、無垢材なので反りやねじれが生じやすく、ひび割れや節も多いという欠点がある。そのため購入の際は木材の状態をよく点検し、極力問題の少ないものを選ぶべきである。とくに側板に使うツーバイエイト材(184mm幅)は反りやひび割れがひどいことが多いので、状態のよいツーバイフォー材(89mm幅)を2枚横接ぎして一枚の側板にするとよい(その方法については後述する)。

SPF材より入手しにくいものの、実は本棚製作に最も適しているのが②合板である。ベニア合板、ランバーコア合板など種類やグレード、厚さは様々だが、いずれも基本的にサブロク(3尺×6尺=910mm×1820mm)と呼ばれる1畳大のサイズで販売されている。反りやひび割れ、節などがなく、材質が均一で加工しやすく、値段もSPF材とあまり変わらないなど多くの利点をもつが、業者向けの材木屋か大規模なホームセンターにしか取り扱いがなく、基本的にサブロクサイズのものしか入手できないのが難点である(シハチ〔4尺×8尺=1220mm×2430mm〕サイズを扱っているホームセンターはまれである)。とくに天井高の本棚を作る場合、サブロクサイズでは側板を一枚で切り出すことができないので、本棚を上下分割式にするなどの工夫が必要になる。それに合板は無垢材より見た目に劣るので、塗装の必要が生じる点も初心者には敷居が高いかもしれない。

これらの欠点をカバーできるのが③集成材である。パイン集成材や杉集成材など様々な種類があり、ホームセンターでの取り扱いが多く、大規模な店舗では天井高を超える長さのものも入手可能である。合板と同様に反りやひび割れ、節などがないことに加えて、木目が美しく無塗装でも問題なく使えるのが長所だが、それだけに値段が高いのがネックである。

このように3種類の木材には一長一短あるので、本棚の製作にあたって何を重視するかに応じて選ぶようにすればいいだろう。材料の安さと入手しやすさを重視するなら①SPF材、値段を抑えつつワンランク上の仕上がりをめざすなら②合板、多少高くついても見た目が綺麗なほうがいいなら③集成材といったところだろうか。

木取り図を描く

使う木材を決めたら、次にすべきことは「木取り図」の作成である。これは購入する木材からどういう具合に部材を切り出すのかを示した図のことで、ホームセンターなどで木材のカットを依頼する際に必要となるものだが、いざ描こうとするとけっこう難しい。というのも、木取り図を作成するにはⓐ設計した本棚を作るのにどういう幅と長さの部材が何枚必要かを把握し、ⓑそれらを切り出すにはどういう幅と長さの木材を何枚購入すれば足りるかを考えなければならないからである。多様なサイズで販売されている木材のなかからどれを選んでどうカットすれば最も無駄が少なく、安く上げることができるか、無数の組み合わせから最適解を導き出すという複雑な計算が必要になってくるのである。

SPF材は幅が決まっていて長さだけを考えればいいからまだ楽だが、幅も長さも自由に決められる合板や集成材の場合はかなり面倒である。さらに話を複雑にするのが、ホームセンターなどの木材カットサービスの料金である。ワンカット50円程度のところが多いようだが、大きな本棚を作るには何十枚も部材が必要になるので、カット料金も馬鹿にならない。同じサイズの木材を複数枚購入して同時に切ってもらえばカット数を減らすことができるが、そのためには切り出す部材の長さを揃える必要があるので、設計段階からカットの仕方も考えておかなければならない。筆者の経験からすると、カット数が増えても大きいサイズの木材から多数の部材を切り出すほうが、結果としては安く上がるようである。木材は長さが倍になってからといって、値段も倍になるわけではないからだ。

木取り図を描くにあたってはもう2点、注意すべきことがある。一つは、すべての部材を長手方向から切り出すことである。たとえばサブロク合板から900mm長の棚板を切り出す場合、合板の長手1820mmから2枚の板を切り出すようにすべきである。木材の繊維は長手方向に走っているので、短手方向から切り出した部材は強度が弱くなってしまう。もう一つは、部材を切り出す際の「のこしろ」も計算に入れることである。カットのたびにノコギリの刃の厚さ(通常は2〜3mm)の分だけ長さが減るので、一枚の木材から複数の部材を切り出す場合、十分に余裕を見ておかないと長さが足りなくなる可能性がある。

木材の運搬はどうするか?

木取り図の作成さえ終われば、もう山を越えたも同然である。後はホームセンターなどに行って木材を購入し、カットして持ち帰るだけで、本棚の組み立てに入ることができる。ただし木材の運搬方法は考えておく必要があるだろう。長く重い木材を手で抱えて持ち帰るのは大変なので自家用車で運べるといいのだが、車を持っていない場合はどうすべきか。

免許を持っているなら、ホームセンターの軽トラック貸し出しサービスを利用するのがベストである。免許もない場合は、台車を買って運ぶという方法もあるが、歩ける距離にホームセンターがなければ、ネット通販で注文して送ってもらうほうがいいかもしれない(通販サイトのなかにも木材カットを請け負っているところがある)。ただし本棚の材料になる木材はサイズが大きいので、通販を利用すると送料が非常に高くなることは覚悟しなければならない。できるだけ安く材料を手に入れるためには、何としてもホームセンターで購入して、自力で持ち帰ることが望ましい。「自分でやれ」というDIYの要求は、コストを極小化するための実践的な提案でもあったわけである。

著者近影

(たの だいすけ)1970年生まれ。甲南大学文学部教授。専攻は歴史社会学。
著書『ファシズムの教室――なぜ集団は暴走するのか』(大月書店)、『愛と欲望のナチズム』(講談社選書メチエ)、『魅惑する帝国――政治の美学化とナチズム』(名古屋大学出版会)ほか。
ウェブサイト
Twitter:@tanosensei

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