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【緊急寄稿企画】社会的距離を超えて〜分断に抗う知

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新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす分断と排除、民主主義の危機に対して再び「社会」を取り戻すために必要な知とはなにか。各分野の識者や現場の実践者から寄稿いただく緊急企画シリーズ… もっと読む
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記事一覧

感染拡大第2波に備え、保健所・地方衛生研究所の再生を(岡﨑祐司)

岡﨑祐司(佛教大学教授、社会福祉学) 疲弊する公衆衛生 新型コロナウイルス感染確認者数は減少しているとはいえ、次の感染拡大の波――第2波に備え、政府と自治体はどのような次の対策をとるべきなのか。「医療崩壊の危機」については、広く指摘されてきたが、地域の公衆衛生――保健所や地方衛生研究所の疲弊にも目を向けなければならない。その際、この20数年間、強行されてきた新自由主義改革――税財政においても資源投入においても、多国籍企業化した大企業と富裕層の利益確保を優先し優遇してきた諸改

コロナ禍を身近な歴史からとらえ返す ――オンライン授業「学童集団疎開の経験」を通して(大門正克)

大門正克(早稲田大学特任教授、歴史学) はじめに 先が見通せないコロナ禍のもとで、歴史の経験から/を学び、今後の手がかりをつかむ意義は大きい。すでに多くの人が感染症の歴史をたどり、そこから今後の行方を探ろうとしている。  ただし、現在の状況を深く見すえ、これからの方途を探るために、歴史から/を学ぶ対象は、感染症だけに限らない。私の場合、その対象を戦時下日本の学童集団疎開の経験に置いた。  世界の政治家の一部には、安易に「コロナウイルスとの戦争」を口にし、現状を戦争にたとえる

「沈黙」がもたらすもの――「自粛警察」に見るファシズムの危険性(田野大輔)

田野大輔(甲南大学教授) 写真:ユダヤ人商店に不買呼びかけのポスターを貼る突撃隊員(Bundesarchiv, Bild 102-14468 / Georg Pahl / CC-BY-SA 3.0)  新型コロナウイルス感染拡大防止のために、日本でも緊急事態宣言が発令され、外出や営業の「自粛」が要請された。そうしたなか、営業を続ける飲食店に脅迫電話をかけたり、公園で遊ぶ子どもの学校に苦情を入れたりするなど、「自粛」の要請に従っていないように見える人たちへの過激なバッシング

コロナ禍で疲弊するケアラーの姿に見える障害者福祉の「家族依存」(後編)(児玉真美)

児玉真美(フリーライター、一般社団法人日本ケアラー連盟代表理事) (前編はこちら) 緊急引継ぎシート「ケアラーのバトン」 日本ケアラー連盟は、埼玉県でケアラー支援条例が制定された3月27日の記者会見の席で緊急アピールを発表し、ケアラー自身が感染した際に要介護者のケアが継続されるよう受け皿の整備、マスクや消毒液など医療資材などの優先的な供給、ケアラーへの情報提供などを訴えた。  その後、とりわけケアラーが感染した場合への備えとして、緊急引継ぎシート「ケアラーのバトン」を作り

白衣のTwitterデモから見えた医療崩壊を防ぐカギ――新型コロナ第2波にそなえるために(吉田岳彦)

吉田岳彦(北海道医療労働組合連合会副委員長)  政府は2020年5月25日、全都道府県で4月7日からおよそ1か月半続いた緊急事態宣言の解除を決定しました。しかし新たな感染者数の減少をよそに、北海道では病院や介護施設での集団感染が続いています。2月初旬に表面化した医療介護現場のマスク不足は、政府発表の解消時期が何度も先送りされ、現在でも改善される見通しが立っていません。  日本医療労働組合連合会(以下、医労連)がおこなったアンケートによれば、マスクが1日1枚という職場はましな

コロナ禍で疲弊するケアラーの姿に見える障害者福祉の「家族依存」(前編)(児玉真美)

児玉真美(フリーライター、一般社団法人日本ケアラー連盟代表理事) 私たちの社会に元からあった矛盾 この緊急企画「社会的距離〈Social Distance〉を超えて」の趣旨説明のページに、以下の一節がある。 私たちの社会に元からあった矛盾や分断――貧者と富者の差、母子家庭や外国籍住民の困難、説明責任や透明性に背を向ける政治、特定の人々への差別や敵視など――が、この危機によってあらためて露呈したとも言えるのではないでしょうか。  コロナ禍で露呈される平時の矛盾のさまざまな

コロナ危機 ここからどこへ?――不合理な経済システムの「断捨離」が必要(本田浩邦)

本田浩邦(経済学者) コロナの流れは「帰らざる河」 先日、今年の春に退職した同僚の先輩教員に電話した。  「先生どうしてます? いま現役の大学教員は遠隔授業の準備で大変ですよ。先生はゼミだけの非常勤になられて、よかったですね」  「いやあ、そうなんだ。オレなんかパソコンできないから、とてもじゃないけどついていけなかったよ。それにしても、授業が終わったら自由に居酒屋に行けたころが懐かしいよな」  居酒屋通いの話は別にして、いま全国、いやおそらくは全世界の教員が、自分の授

コロナの時代の愛――Japanese Onlyな世界で(金村詩恩)

金村詩恩(ライター)  まだ2月上旬だった。出勤すると、上司がホワイトボードに書かれた予定を消していた。 「こんにちは。どうしたんですか?」 「あっ、金村さん。実は、来週の中国出張の予定がキャンセルになっちゃってね」 先月下旬ぐらいからワイドショーで、切迫した表情の専門家が警鐘を鳴らしていたが、対岸の火事としか思っていなかった。しかし、予定が消されたわけを聴き、ウイルスをすこしだけ身近に感じた。  「きょうなんだけど、明日の行事用の資料を作ってもらえますか? もうちょっとし

コロナ禍でみえた高齢者介護の「現在」「過去」「未来」――ポストコロナに必要なのは〈回復〉ではなく〈転換〉(林泰則)

林 泰則(全日本民主医療機関連合会)  新型コロナウイルス感染症(コロナ禍)の拡がりは、介護事業所、利用者双方にきわめて深刻な困難をもたらしており、「介護崩壊」の危機に直面している地域や事業所もある。これは、公的な介護保障の枠組みが劣化してきたことによって生じた困難やリスクが大きな犠牲を払って表面化していることを意味しており、政府が推進してきた新自由主義的な社会保障構造改革のひとつの帰結ともいってよいだろう。現時点での介護現場の現状を紹介し、コロナ禍のもとで露呈している現行

学校という場でこそ生まれる「学び」を求めて――生徒たちと向き合えない春に(金子奨)

金子 奨(公立高校教師) ないないづくしの新学期「あのう、スマホもパソコンもないんですけど、どうしたらいいですか?」  辛うじて実施できた入学式後のホームルーム教室。担任が「今後の動向については学校のホームページをこまめにチェックするように」と呼びかけたところ、男子生徒が不安げに話しかけてきた。 「そうか。じゃ、伝えるべきことがあれば、担任からその都度連絡してもらうね」 「ありがとうございます」 「で、どうしたら連絡がつくのかな?」 「提出した書類に書いてある母親のスマホに

新型コロナ危機をのりこえる力はどこにあるか――『「社会を変えよう」といわれたら』その後(木下ちがや)

木下ちがや(政治学者。TwitterID「こたつぬこ」@sangituyama) 危機がつくりだす共通感覚が他者への理解をすすめる こんにちは。はじめまして。おひさしぶりです。  僕を知る人も知らない人も、このエッセイをいま覗いているみなさんと僕との出会い方はいろいろです。ただこの場でわたしたちをいま結んでいるのは、先行きの見えない容赦ない危機のさなかにいるという認識、です。  この危機はいつから始まったのでしょうか。2月から? 3月から? それとも先週から?  インター

「女の仕事」と言われてきた保育園が今の日本を支えている (町田ひろみ)

町田ひろみ(保育士、安保関連法に反対するママの会) 保育園は「3つの密」が揃う場 私は私立の認可保育園に勤める保育士だ。  保育園は「3密」が揃いやすい施設だ。生活の場であり、子どもと職員が集まる密閉された空間だ。こう考えれば保育園が濃厚感染しやすい施設であることははっきりしている。事実、保育園でのクラスター(感染集団)の報告も出ている。  私たち保育士が、3密が揃うことを一番知っている。だからこそ、「3つの密」が言われた時点で「保育園が危ない」と感じていたし、そこを回避で

税負担の公正化でコロナ対策の財源をつくる(湖東京至)

湖東京至(元静岡大学教授・税理士。「不公平な税制をただす会」代表委員) コロナショックが経済を直撃 「仕事がない」「生活が破綻する」「政府は自粛しろというが補償はどうなっているんだ」という人々の悲鳴、怒りの声が聞こえる。ここにきて与党の中からも「1人10万円給付」が提案されるに至り安倍内閣は補正予算の組み換えを行った。この際、1日も早く、1人一律10万円を給付すべきだ。  1人一律10万円を給付すると必要財源はおよそ12.9兆円。これまで安倍内閣が提案していた減収低所得世帯

「2割超の学生が退学を検討」 コロナ禍で露わになった高等教育と学生の貧困(梶原渉)

梶原 渉(一橋大学大学院社会学研究科修士課程)  「13人に1人の学生が退学を検討」――驚くべき実態が新型コロナウィルス感染拡大(以下、コロナ禍)の中で明らかになり、メディアやSNS上で話題となり、そしていまや国政も動かしています。  これは、4月22日に学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」が発表したコロナ禍による学生への影響を調査した中間報告で明らかになった実態です。  その後、調査への回答者が増えた結果、退学を検討している学生はおよそ5人に1人、20.3%にの