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僕らと命のプレリュード 第14話

 少年の言葉に、聖夜は戸惑いながら頷く。

「君は……?」

 聖夜が問うと、少年は人差し指を聖夜の口に当てて穏やかに言った。

「話は後。まずはこの状況を何とかしよう」

 少年が祈るように手を握ると黒い雪が降り始めた。それに伴って、辺りが冬のような寒さになる。

「この寒さには耐えられないだろう」

 少年は微笑んだまま言った。すると空気が揺れ、巨大なスズメバチのような生物が突如として姿を現したのだ。

「高次元生物……!あれが親玉か!」

「そのようだね」

 少年は地面に手を触れた。すると地面から黒い狼が何頭も生み出された。

「君、アビリティは?」

「『加速』だけど……」

「丁度良い……僕のサポートに回ってよ」

「サポート……?」

 首を傾げる聖夜に、少年はにこりと笑った。

「そう。僕の狼達に『加速』をかけてくれる?」

 少年の提案に、聖夜は戸惑いの表情を浮かべる。

「俺、そういうのやったこと無いんだ。いつも自分の速度を上げて戦ってて……できるかどうか」

 不安そうな聖夜に少年は優しく言った。

「できるさ」

 少年の落ち着いた様子に、聖夜は不安な気持ちを押し殺して頷いた。

「やってみる……」

 聖夜は狼たちに近寄り、少年がしたように地面に手を触れた。

「……『加速』!」

 すると狼達が聖夜を振り返った。

(かかった……のか?)

 少年は聖夜の肩に手を置いて笑いかけた。

「後は任せて」

 少年は狼達に告げた。

「……骨一本残すな。食らいつくせ」

 その横顔は先程とうってかわって冷酷だった。少年の声に呼応して、狼達が高次元生物にものすごい早さで飛びかかる。周囲の人々が呆然とする中、狼達は抵抗する高次元生物に食らいつき続けた。

 ……しばらくして狼達が少年のもとに戻ってきた。その後には、本当に何も残らなかった。

「おつかれさま」

 少年がそう言うと、狼達は溶けて無くなった。それと同時に黒い雪も止み、倒れていた人々が目を覚ましていく。

「あなた!」

 女性が目を覚ました夫に抱きついた。

「本当にありがとうございます……」

 礼を言われた少年は、女性に対して微笑むと、聖夜に向けても目を細めた。

「すぐに片付けられた。君のおかげだ」

「そ、そんなこと……」

 聖夜は慌てて首を横に振る。そんな聖夜に、少年は微笑んだまま言った。

「君は強い力を持っている。それこそ、今のように仲間を助ける力をね。君は自分の能力をもっと上手く使うといい。そうしたら、まだまだ強くなれるよ」

 そう言う少年に、聖夜はハッとして聞いた。

「君、名前は?君も高次元生物と戦ってるの?」

 少年は頷きもせず、首を横に振ることもなく、ただ穏やかな微笑みを浮かべたまま、聖夜の質問に答える。

「僕はノエル。君と同じように、僕にも果たさなきゃいけない使命があるとだけ言っておくよ。君の名前は?」

「俺、宵月聖夜!」

「宵月聖夜……か。覚えておくよ」

 ノエルは微笑んで、ゆっくりと公園の出口へ歩き出した。

「またね、聖夜」

 公園を立ち去るノエルの背中を、聖夜はぼんやりと眺めていた。

「彼、何者なんだろう……って、あれ?」

 キラリと光るものを見つけ、聖夜は足下を見た。その光ったものを手に取って確認すると、向日葵の形をした金色の髪飾りだった。

(向日葵の髪飾り……ノエルが落としたのかな?)

 聖夜は髪飾りを拾って、とりあえずポケットに入れた。

「あれ?僕は一体……」

 聖夜のすぐ傍で、司が身体を起こす。司が目を覚ましたのに気が付いて、聖夜は慌てて彼の身体を支えた。

「司!大丈夫か?」

「うん……。あ、あれ……!」

 司が指さす方向を見ると、遠くから警官が駆けてきていた。警察官は、普段と変わらない平和な公園の様子を見て、首をかしげる。

「あれ?通報があって来たのだが……」

「あ、僕です!」

 司が警官の元へ向かった。それに聖夜も続く。

「どうかしたのか?」

「俺が説明します」

 聖夜は警官に事情を説明した。

「つまり……虫型の高次元生物が現れ人々を眠らせ、それに君とノエルという少年が対峙したと」

「はい」

「それで、そのノエル君はどこに?」

「さぁ……もう公園を出てしまって」

「そうか……とにかく、お手柄だったな」

 警官に笑顔で言われて、聖夜は苦笑いした。

(殆どノエルのお陰なんだけどな。でも……)

 聖夜は自分の掌を見つめた。

(掴んだ気がする。俺の力の使い方)

「あ!聖夜ー!」

 遠くから、青いマントを翻して柊と海奈が駆けてくるのが見えた。

「一時的に高次元生物の反応があったって聞いて確認しに来たんだけど……」

 不安そうな顔をする柊に対して、聖夜は穏やかに答える。

「大丈夫。もう倒したよ」

 聖夜の落ち着いた様子を見て、柊は少し首を傾げた。

「何かすっきりした顔だね?」

「え、そうかな……?」

「うん。なんていうか……吹っ切れた顔してる」

 柊はそう言うと、傍らの司の存在に気がついて笑いかけた。

「久しぶりだね、司君」

「柊!」

「元気にしてた?」

「もちろん!」

 会話が弾む2人を傍目に、聖夜は海奈に声をかけた。

「海奈も、わざわざ来てくれてありがとな」

 しかし、海奈は聖夜の言葉に反応せず、ただぼんやりと2人を見ている。どこか上の空な様子の海奈を、聖夜は心配そうにのぞき込んだ。

「海奈、どうかしたのか……?」

 聖夜が尋ねると、海奈はハッとして、聖夜に向かって首を振った。

「あ、ごめん……大丈夫だよ。このくらい当然だからさ!」

 海奈は自己紹介の時と同じように、快活な笑顔で答える。その様子が、どこか聖夜の胸に引っかかったが、直後の海奈の発言で全て吹き飛んでしまうことになる。

「ところで、この袋の中の保冷剤、溶け始めてるけど大丈夫か?」

 海奈の問いに、聖夜と司は顔を見合わせた。

「あー!!」

「早く帰ろう!」

 2人は慌てて付属学校へと向かった。

「じゃあ、私達も戻ろうか」

「うん」

 海奈は柊の声に頷き、笑顔を作った。

「あたし達も、帰ろう」


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