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愚かなる火星人たち

目の前に置かれたのは、もっちりした黄金色の焼き芋だった。僕は皿を置いたウェイトレスが奥に下がるのを、今か今かと心待ちにしていた。

「こちらはオリンポス山の麓の農場で、今秋採れたばかりのサツマイモです」

僕たちはもう産地がどこだって構わない。すぐにでも口に放り込みたくて、うずうずしている。口じゅうに広がる唾液がもう止まらなかった。

「一時間以上じっくり炭火で焼きあげたあと、当社の冷蔵室でじっくり寝かせた糖度の高いものとなっております」

ウェイトレスの説明はまだまだ続く。まるで拷問にかけられている気分だった。地球人たちの食前は、いつもこんな苦しみを味わっているのだろうか?

僕たちは空腹のあまり、目は文字通り

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だった。手足の吸盤を巧妙にカモフラージュしていたのも、興奮のあまり飛び出し始めて

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と一面に現れだした。でも、僕たちは正体が露わになっていることに、気づいていなかった。食欲がすべてに勝っていたから。

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裁判の過程で知った話によると、ウェイトレスの巧妙な罠は綿密に計画されたものだった。彼女はおとり捜査官で、通称「愚かなる火星人」を取り締まるのが目的だった。

「愚かなる火星人」とは、地球人に紛れ込んで買い物やグルメにうつつを抜かす火星人のことを指す。その噂は、都市伝説として地球人のSNSで、ひそかに囁かれだしていた。

色とりどりの透明な宝石に目を丸くする火星人(宝石の形状は丸くなければならない)、バカンスを満喫する火星人(訪れる場所は海でなければならない)、筒を集める火星人(中に入れて住処になりそうなサイズ)、ラーメン店をはしごする火星人(行列を見つけるとそわそわし出す)、そして焼き芋に舌鼓を打つ火星人といった具合だった。

地球からの火星移住者たちは、幸い「まだ」その都市伝説を本気にしていなかった。

だからこそ、今のうちに現状を改善しておくべきだ、と謙虚な火星人たちは考えた。それも無理はなかった。もし万が一、浮かれた火星人が白日のもとに晒されれでもしたら、と考えただけで謙虚な火星人たちは気が気でなかった。

ウェイトレスに変装した火星人は、食欲ゆえの情けない姿を晒した僕を、現行犯で逮捕した。

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判決が出ると、すぐに更生施設に送られた。すでに離脱症状に苦しむ僕は、喋る焼き芋や、泳ぐ焼き芋の幻影に怯えだした。「焼き芋中毒」の僕は、しばらく投薬と食餌療法、そして道徳教育漬けの毎日を送ることになった。

更生施設ではいろんな火星人に出会った。グループミーティングにも参加した。どの火星人にも共通することは、地球人の欲の強さに感化されてしまった者たちばかりだという点だった。

隠された海と露呈した砂漠しか知らなかった僕たちは、あらゆる種類の欲に対する抵抗力がなかった。だから、欲望に取り憑かれるとブレーキがきかなくなる。抗いがたい社会現象だとみる風潮も無理もない。だが、これがエスカレートすることは、火星人の露呈と最終戦争を意味する。

誘惑で占め尽くされた火星で、「焼き芋が怖い」と言えるその日が来るまで、僕は僕自身と闘うつもりでいる。

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