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「われわれは宇宙人」
「われわれは宇宙人」
学校中のスピーカーから流れるその放送に、中間休みの小学校は一瞬黙り込んだ。
「あー、あー。われわれは宇宙人。ただいまマイクのテスト中」
くすりと、笑い声があちこちの教室から聞こえてきた。
「われわれ宇宙人はこれから、この巨大施設をスーパー銭湯に改築する。今いるちびっ子たち、それに教えているつもりの大人たち、ここからさっさと出て行きなさい」
子どもたちの笑い声はげらげらと大きくなった。「スーパー銭湯だって」「レトロすぎてバズる」「めざせ火星1号店」と大喜びの子もいた。
放送室に急行した先生たちは、この悪戯小僧を引っ張り出すつもりでいた。どの生徒だろう?といつもの悪ガキの顔を思い浮かべていた。先生なんて、そんなものだ。
ところが、その放送室の扉一面に生えるシダ植物群に、ただ事ならない気配を感じ取った。シダに行く手を阻まれながらも、ようやくたどり着いた扉は、びっしり生え続けるゼンマイに絡まってびくともしなかった。
「無駄な抵抗はよせ。お前はもう包囲されているぞ」と校長先生が語りかけた。だが、どう考えても子どもの仕業にみえなかった。人間の仕業にもみえなかった。諦めた校長は生徒たちの避難を命じた。
集まっていた先生たちは、猛ダッシュでそれぞれ担任のクラスに散らばっていった。これは悪戯なんかじゃなさそうだ。
「あー、あー。かきくうきゃくはとなりのきくにんぎょう。さあ、とっとと武器を置いて出ていけ。われわれは宇宙人」
*
子どもたちはまだ誰も放送を本気にせず、笑ってばかりいた。「そういえば○○君がいない」と誰かの仕業を匂わせる子もいた。だが、たいていはトイレ休憩に行っているか、グラウンドでドッジボール中だった。
慌てふためいて焦っているのは、大人たちばかりだった。
校長は電話のダイヤルを押して、警察に連絡を入れようとした。だが、受話器に出たのは、放送室にいる自称宇宙人と同じ声だった。
「われわれをチクるとは、いい度胸をしている。今度はわれわれがお前をチクってやろう」
途端に学校中のスピーカーが再びオンになった。
「あー、あー。よくとなりにいるのはかきくうきゃくだ。聞こえるか?お前たちの校長の子どもの頃は、ありとあらゆる悪さをした悪戯小僧で有名だった。カンニングやいたずら書きはお手のもの・・・」
次から次へと並ぶ過去の悪行に対して、校長室から「やめてくれえ」と情けない声が響いてきた。
「・・・というわけだ。われわれ宇宙人にはすべてお見通しだ」
最初は笑っていた子どもたちも、校長の昔の醜聞のあまりのひどさに引きまくってしまい、すっかり黙り込んでしまった。おかげで担任の先生たちは、子どもたちに呼びかけやすくなった。
「今すぐ荷物をまとめて帰りましょう!」
担任の先生たちも、昔のあれやこれやを暴露されたら堪らない。早くこの場を離れたい、とばかり考えていた。
*
「あー、あー。かきとなりとなりのきゃくになりたしあきはくれ。ただいまマイクのテスト中。われわれ宇宙人はかきくけこ」
無人の校舎に響く放送は、どこか物寂しそうだった。宣言というものは聞き手がいなければ、ただの戯言になってしまう。
きっとスーパー銭湯は完成しないだろう。今のところ小学校をジャックした宇宙人は一人だけだったし、これから増える気配もなさそうだ。放送室だけがシダのジャングルと化して、そこだけサウナ気分に浸れるだろう。ははは。そう言い合って、びくびくしていた先生たちは、少しだけ優越感に浸った。
子どもたちは家に帰るまでずっと、スーパー銭湯のことを語り合った。インターネットで見たことあるんだ。いろんな温泉を堪能できる場所なんだ。いろんなスタイルのお風呂があって、ジャグジー風呂っていう泡だらけのお風呂や、滝修行のできるものもあるらしい。飲食店だって入ってるんだ。銭湯というより遊園地だよね。
悪戯好きの宇宙人は、悪戯では校長に負けるけれども、誰かからの期待にはめっぽう弱くて人一倍張り切った。どんなに的外れな期待でも、期待されれば宇宙人だって悪い気はしないものだ。プールの敷地だけでも仲間を呼んで改装しよう、と取り敢えず仲間に見積もりをとることにした。すでに前年度に予算を組んでいるので、大幅な変更があるとはいえ問題はないだろう。
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