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山と云う霊域/『紅い服の少女』第一、二章 を観て…。


『紅い服の少女 第一章 神隠し(原題『紅衣小女孩』2015年)』、『紅い服の少女 第二章 真実(原題『紅衣小女孩2』2017年)』は、台湾で話題を呼んだ実話を基にした映画だという。

『第一章 神隠し』を観た旨は、既につぶやき済みなので割愛させていただきますね。

『第二章 真実』を観終わりました。
『第一章』ではやや消化不良気味だった内容も、『第二章』ではかなり踏み込んだ展開となっていました。脚色の面でも然りです。
 好き嫌いはあると思います。
 個人的には夏の夜長に観る会談譚として満足するものでした。

『紅い服の少女』をご覧になる場合、もし時間的に余裕があるのなら、第一章 と 第二章 を続けて視聴するのが良いかも知れません。
 その方が判り易く、展開にもついて行き易いと思うのです。
「えっ?!なに?」
「えぇ〜っ!そーなの、びっくり!」
と、前作を踏まえて観ることができるので、時間を空けて「はて?どうだったか…」と思い出しながら観るより没入感もあり集中できると思いますよ。

 ではここからは、「紅い服の少女」、
 基礎的知識おさらいです。

 1998年、台湾全土を席巻し、多くの憶測と考察から社会現象となり、今もなお都市伝説として語られている怪異事件「紅い服の少女」…。
 90年代の台湾を象徴する実話を基にした映画です。
 この手の話しが苦手だという方もいらっしゃることと思います。斯く言うわたしも苦手なので、その詳細については敢えて触れない事とします。
 ※ 実際の事件については、只々怖いという理由で、検索・閲覧はおすすめしません。

 さて、気になる映画のお話しですが、やはりここは、あらすじなど内容が判じでしまうことを敢えて避け、わたしが興味深いと感じたポイントに絞ってお話しを進めたいと思います。


 先ず、『紅い服の少女 第一章 神隠し』では、「山で名前を呼んではいけない」という禁忌が語られています。
 実はこれ、日本にも同様の禁忌があるのです。

 例えば…、

山の中を歩いているときに、後ろから誰かに名前を呼ばれても返事をしてはいけない。

 山の中や森の中で「オーイ」と声を掛けられても、返事をしたり、声のした方向へ行ったりしてはいけない。

 山では、本名で呼び合ってはいけない。

 これらの基本となる概念は、山の中には、人にとって得体の知れない、それは恐ろしい “何か” がいるというものです。

 山に分け入った者達が本名を互いを呼び合うと、その “何か” に名前が知られてしまう…。
 名を知られると、その “何か” が呼びかけてきて、うっかりそれに返事をしてしまうと、どこかへと連れて行かれてしまう。
 そして、生きて下山することはできない…と云われています。

 古くから山に分け入ることを生業とした人々は、山のしきたりとして、屋号や愛称で互いを呼び合うのが習わしのようです。

 このように日本にも山にまつわる怪異・伝承は多く、これらは「 山怪さんかい」と呼ばれています。
「山怪」とは山の怪異のことで、狐や狸に化かされる、神隠し、臨死体験、人魂ひとだまや狐火、大蛇伝承などを云います。
山人さんじん」と呼ばれる山に暮らし山を生業の場とする猟師や林業関係者、民宿経営者、修験者などの体験談が基になって語られています。

山怪のひとつ「幽谷響やまびこ」と「さとり
鳥山石燕『画図百鬼夜行』『今昔画図続百鬼』より


 『捜神後記』には「山ソウ」なる化けものの記述があります。(ソウの漢字は「操」の「てへん」が「けものへん」)
 山には「山ソウ」という化け物がいて、これに名前を知られると危害を加えられるといいます。「ヤマノケ」、「ヒキサル」など土地によって類型があり、顔は人、体はさるのようで、一本足の化け物だそうです。

 次いで 『紅い服の少女 第二章 真実』では、「山には結界が張られ、その内側が得体の知れない “何か” の領域になっている」という主旨が語られています。
 これに類似する禁忌も、日本の伝承として語り継がれています。

 いにしえの時代…。
 日本の山岳信仰に於いて山とは特別な場所でした。
  “山は神々の棲まう霊域 ” として、それ故に神聖視でされていました。
 俗世である常世とこよと、不可侵の領域である隠世・幽世かくりよとを隔てる境界にあたると考えられていました。
 境界を越えること…それは「けがれ」を意味し、それをおかすと「さわり」や「たたり」があると伝えられてきました。
 山のぬしたる “神 ” に許しを乞わず、身勝手に山へと分け入る行為は不心得ふこころえであり無作法とされました。 
 畏れを知らぬ愚かな行為だった訳です。

 何とも興味深く感慨深い…アジアに於ける信仰の歴史とその共通点を実感した映画でした。

 昨今のアジアン・ホラーでは、韓国のイメージが強かったのです。良い意味でハリウッド的というか、エンターテイメント性があるというか…そんな大作感のある作品も多いと思います。
 しかしながら、わたしは派手なホラーよりも地味なホラーを好む傾向にあります。
 そのような観点から鑑みて、台湾ホラー…良いんじゃないかな✨✨と思いました。
 日本の怪異・怪談・奇譚を想起させる暗くて陰湿で、地味な土着性、全体的に醸し出されている大気が澱んだような雰囲気…良いじゃないですか。
 後味の悪さも大事かな(笑)

 さて、次はなにを観ようかと…そんなワクワクな、今日この頃なのです。



 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。感謝。



[参考資料]

 常世(とこよ)とは、かくりよ(隠世・幽世)ともいい、永久に変わらない(変化の無い世界であり、例えるなら因果律がないような定常的であり、ある部分では時間軸が無いともいえる様な世界)神域であり、死後の世界や「永久」を意味し、古くは「常夜」とも表記した。
 日本神話や古神道や神道の重要な二律する世界観の一方であり、対峙して「現世(うつしよ)」がある。

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