中年女性と小学生女子が繰り広げた狭い歩道での一幕に笑った話。
「・・・にしなさい!・・葉にしなさい!言葉にしなさい!」
派遣帰りの暗めの夕方。雨上がり。
自転車で帰る私の前方からこんな言葉が聞こえてきた。
声の主を見つけると、それは中年の女性の声だった。
誰に向けての台詞だろうか、と訝しんでいると、中年女性の背後に自転車を漕いでいる女の子がいた。
たぶん小学校中学年くらい。
もう時間も遅かったので、遊びから家に帰る途中だろうか。
その女の子がけたたましく何度も、リンリンリンと自転車のベルを鳴らしてた。
どうやらそれは中年女性に向けてのものだろう。
中年女性とチャリンコ小学生女子が通る歩道はかなり狭い。となりはすぐ車道、且つもう日も落ちていたためかなり暗い。
中年女性を追い越すのは無理だと判断し、中年女性に道を譲ってもらおうと小学生女子はベルをならしていたのだろう。
ただあまりにもしつこいベルの音だった。まるで遊んでいるようだった。
しかし中年女性は道を譲らない。それどころかしきりに「言葉にしなさい!言葉にしなさい!」と後ろの女子小学生を叱咤している。
どうやら中年女性はその小学生女子の祖母か母親かどちらかなのだろう。でないと知らない子供に対して、そんなに強い言葉を吐けないはずだ。
おそらく中年女性は小学生女子に対し、「道を譲ってもらうなら、言葉の1つでもかけてから行きなさい」と教育しているのだろう。
確かに私も、狭い歩道での追い抜きは困る。
特に自分が自転車に乗っているときは、前を歩く歩行者に道を譲ってもらうのが申し訳なくなる。
仕方なくベルを鳴らしたときも、すれ違う際に軽い会釈や「すいません」の一言を添える。
中年女性は身内の小学生女子に対して、こういった謙虚さを学ばせようとしていたのだ。
だからそれなりに大きい声で、他の歩行者の目もはばからず「言葉にしなさい!」と叱咤していたのだろう。
素晴らしい教育。こういったことが後々、教えられた子供に生きてくるのだろう。
と1人勝手に私が感心していると、中年女性と女子小学生が歩道のT時路に差し掛かった。
おそらく二人共帰路は同じだろうから、同じ方向に進んでいくと思われた。
しかし、ベルリンリン小学生女子は曲がり、中年女性はそのまま直進した。
他人だったのか、と私が少し驚いていると、中年女性が叫んだ。
「うるさいなぁ、もう!言葉で言え、言葉で!ったく最近のガキはぁ!」
どうやら彼女らは全くの赤の他人だったようだ。
それどころか、ずっと中年女性が女子小学生の道をブロックしていたようだ。
中年女性はベルを鳴らされたことに腹を立てたのだろうか、かなりの怒り心頭ぶりだった。
私はそんな一幕を見て、軽く笑ってしまった。
全くいい大人がそんなことで、と。
そして見事ブロッキングを回避し、T字路を曲がっていった女子小学生は、中年女性の雄叫びを華麗にスルーし、下り坂を軽快に自転車で走らせていた。
まったく、どっちが大人かわかったもんじゃない(笑)
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