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ダンスホール

 赤や青、緑や黄色のレーザー光線が、人間の神経を高ぶらせるように暗いホールを慌ただしく照らし出している。いつもはこんな場所には来ないのだが、後輩の野田がしつこく誘ってきたため、これも社会勉強になるかもしれないと思い直し、来てみたが、想像以上に騒々しい場所だった。まだ飲み物を頼んだだけなのに、一刻も早くこんな店から飛び出して、家に帰り愛猫の『みーすけ』を撫でたい願望が沸々とお腹の底から湧いてきていた。

 野田はというと、そんな私のことなどお構いなしに、隣のテーブルにいる派手な格好の女2人と楽しそうにケラケラと笑いながら話していた。普段から感じていたことだが、この野田という男は社交性の塊のような奴で、初対面の相手とも数秒で打ち解けることができる能力を持っているのだ。それに比べて社交性をゴマ粒ほども持ち合わせていない私は、「#場違い」そのもので、今頃、ここにいる誰かに「場違い男発見なうw」とかSNSで呟かれて笑われているのではないかと妄想し、少しでも場に馴染んでいる感を出すために色々と立ち姿を変えたり、「音楽(私からすれば騒音だが)にノッてるんです、楽しんでるんです感」を出すために、近くにいる奴の真似をして足踏みしたり顔をウンウン上下に振ったりしてみたが、腰と首と頭が痛くなるだけだった。

 「先輩!」と野田に肩を叩かれ我に返ると、さっきまで野田が楽しそうに話していた隣のテーブルの女2人がこちらを笑顔で見ていた。まさか「あんた、ノッてる振りしてるだけでしょ?」とバレてしまったのかと思ったが、どうやらいつの間にか自己紹介タイムになっていたようだ。「エミリです!」「アスカです!」と、大音量の音楽(騒音)が鳴り響いているため、大声で自己紹介をしなければならない。大声を出すなど、もう何年振りのことだろうか。少年野球をやっていた頃以来か。万年補欠で試合に出ることは一度もなかったが、ベンチで黙って試合を見ていると「何やってんだ!声だせ!声!仲間を応援してやれ!」と監督が怖く、うるさかったので、「うぉー!かっとばせー!」とヤケクソになって大声を出したことを覚えている。その時のノリでいいのかも分からず、でも変に間を空けるのも嫌だったので「こんばんは!久保田ですっ!」と、とりあえず大声で自己紹介をした。久しぶりに出した大声で、身体がビックリしたのだろう、喉がピリピリ、心臓がドキドキと痛んだ。女2人はキョトンとした顔で苦笑の会釈をした。野田も少し驚いたような顔をしている。自己紹介したばかりだったが、やはり一刻も早く帰りたくなった。

 ドリンクが運ばれてきた後も、どこにそんなたくさん会話のネタがあるのか不思議なくらい、野田は、引き続き女2人と談笑していた。私はチビチビ、レモンサワーを飲んだ。さっき痛めた喉に炭酸がしみる。

 レモンサワーを飲みながら、ふと改めてホールを見渡すと、本当に色々な人がいることに気付く。何かに対して怒っている様に踊る人もいれば、人と完全に分かち合うことなんて出来ない寂しさを、ダンスで世界に共有しようとしている人もいる。レーザー光線は、相も変わらず慌ただしく暗闇を照らし出し、それぞれの人が、それぞれ背負った、目に見えないモノを、この空間に投げ出す手伝いでもしているようだった。

 と、自分の身体の内側が、ズンズンズン、ズンズンズン、と響いていることに気付いた。人間の身体のほとんどは、水分だと聞いたことがあるが、まさに自分の身体の内にある水が、耳を塞ぎたくなるような大きな音の振動によって、響き、揺れ動いているような感覚だった。

 「先輩!?」と野田の声が後ろの方から聞こえてきた気がするが、どうでもよかった。さっきまで騒音だと思っていた音楽と一体になって、自分の身体が、自分の意志とは関係なく勝手に動くのを感じた。それはまるで、思考という鎖から、独裁から、身体が逃げ出して、自由を手に入れたような感覚だった。腹の奥の奥の方から次から次へと湧き出てくる叫びが、衝動が、「自分は今、生きている」ことを、暗闇に、世界に表現しているようだった。

 学校でも、会社でも教わったことのない言葉が、自分の口から勢いよく叫び声になって飛び出した。原始人の声だ、と思った。今まで身に付けてきたもの、学んできたことをすべて吹き飛ばしてしまうような声だった。吹き飛ばす度に涙が溢れ出した。恥ずかしさなど感じている暇もなく、ただただ涙が流れた。目が、涙の雫が熱かった。

 レーザー光線が暗闇を照らし出す、一瞬、一瞬が連なった世界の中で、私は力一杯、生命を叫んでいた。

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読んでくださって、ありがとうございます。

今回は、aoaoaoaoaoa12の写真を見て感じたことをショートショートにして書かせていただきました。aoaoaoaoaoa12さん、ありがとうございます。

今日も、すべてに、ありがとう✨



 

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