見出し画像

3月14日、苦難の歴史と、ひたむきな音楽人生が導き出す、"シルヴェストロフならでは"の、やさしい音楽...

イギリスのヴァイオリニスト、ダニエル・ローランドと、ウクライナのピアニスト、ボリス・フェドロフによる、ウクライナを代表する作曲家、シルヴェストロフの室内楽作品集、"The Messenger"。
CHALLENGE CLASSICS/CC72939

ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにし、今、改めて注目されているように感じる、ウクライナ、キーウに生まれ、育ち、学び、長年、活動の拠点としてきたシルヴェストロフ(b.1937)の音楽... そのエッセンスを詰め込んだアルバム、"The Messenger"... で、アルバムのタイトルにもなっている、ピアノ独奏での「使者」(1996)に始まり、ヴァイオリンとピアノによる「追伸」(1990)、3つの小品(2005)、J.S.B.へのオマージュ(2009)、5つの小品(2004)、そして、チェロ(ボグダノヴィチによる... )とピアノによる「墓碑銘」(1999)という、"シルヴェストロフならでは"の、やさしい音楽に、そのやさしさへと至る前、ウクライナが独立(1991)する前、ソヴィエト時代に書かれた2番のピアノ・ソナタ(1975)が取り上げられる。

で、興味深いのが、その2番のピアノ・ソナタ。"社会主義リアリズム"という名の検閲下に置かれながら、東西冷戦の壁の向こう側の「前衛」を意識した尖がった音楽に、シルヴェストロフの自由への切実さが読み取れて、揺さぶられるのです。が、すでにイノセンスさは表れており... 東側の閉塞感に対する厭世だったか?そこに、シルヴェストロフのやさしさの源流を見出すようで、感慨深い。いや、この源流を知ってこそ、シルヴェストロフのやさしい音楽の意味が強調される気がする。今だけでない、今に至るウクライナの苦難の歴史と、その只中にあったシルヴェストロフのひたむきな音楽人生が導き出す、突き抜けたやさしさと、澄み切ったイノセンスさ... 静かなメッセージが、"The Messenger"には籠められている。

そんな、シルヴェストロフの室内楽を聴かせてくれた、ローランド(ヴァイオリン)、フェドロフ(ピアノ)、そして、ボグダノヴィチ(チェロ)... まず、"シルヴェストロフならでは"の繊細さ、力の抜けたタッチで、瑞々しく響かせるフェドロフのピアノに惹き込まれる... で、しっかりとベースを作り、そこにローランドとボグダノヴィチが伸びやかに歌う!シンプルな音楽をシンプルのままに... 素直な弦楽から溢れ出す、儚げな表情!まるで夢現の中で音楽を聴くよう... 幻惑される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?