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ドラマ『作りたい女と食べたい女』第27~30話(終)原作改変&改悪メモ

 最終週ですが、特に良かった原作からの改変は思いつきませんでした。何なら、最終週が最も原作をひどくいじったように感じます。



第27話 「この一軒家ひろ~」「5LDK…。部屋が余りますね」

 冒頭から、このよくわからないやり取りは一体何の意味があったのでしょうか。そりゃ一軒家なのだから広いのは当たり前でしょう。本当に住むつもりがあるわけではないのでしょうけど、ただの雑談にしては違和感がすごいです。


第27話 不動産屋で今更離れた席の人に聞こえるのを気にしだす

 不動産屋での相談で「同性カップルだなんて言えない! ここはプライバシーが守られてない!」みたいな描写になっていましたが、こんな場所で何も気にせず話せてたのだから、今更ではないでしょうか。会社のような毎日来る施設と比べたら、繁華街寄りの不動産屋なんて何か問題あるのでしょうか。


第27話 家賃未払いを避けたい大家側の立場を完全に“透明化”

ゆざきさかおみ:著 『作りたい女と食べたい女 4』
2023年6月15日初版発行 第36話より
「家賃の未払いを防ぐのが目的らしいですが…」

 ドラマ版、わざとなのか何なのか、原作以上に家賃と収入の問題が出てきません。もしこの2人が『正直不動産』の世界に行ったら「あなた方が問題なのは女同士とかではありません。探してる物件が収入と見合ってないだけです~~~~~」ときつい現実を突きつけられる可能性が濃厚です。


第27話 野本さんの実家から仕送りあんこ

 今回の仕送り描写は原作にはなく、ドラマのオリジナル描写なのですが、「30代で今も日常的に仕送りしてもらってる状態なら、実家に戻ったほうがいいのでは…」と見ていて不安になるのでやめてほしかったです。

料理人からひとこと。熱湯をシンクに流す時は、水を流しながらにしてください。シンク自体は大丈夫ですが、熱湯でゴム等の接着剤が溶けてしまいます。お気をつけくださいね😊ドラマと関係ないコメント失礼しました🙏

視聴者のコメントより

 ついでに、視聴者から調理工程に対してツッコミが入るというおまけ付き。公式サイトの「オールスタッフ」のページによると、調理アシスタントが10人もいるみたいですが。


第27話 何の罪もない実在の赤ちゃんを負の象徴扱いする配慮のなさ

 この後の第27話を見るかぎり、どうもこの赤ちゃんは結婚を迫られる象徴として写真が使われたようなのですが、いくらなんでも実在の人様をそんな扱いにするとか失礼じゃないでしょうか。春日役の人に過激増量させるといったドラマスタッフの人権意識のなさは以前から明らかでしたが、それがこういった描写にも現れているように思います。

 そもそもシーズン1では子育てをしているレズビアン女性が作中で紹介されていました。それでいて新生児を負の象徴扱いするのは、一体何を考えているのか理解に苦しみます。

 春日十々子の弟の子どもの件もそうなのですが、ドラマスタッフは子を持つことに対して何かしらの憎しみでも抱えているのでしょうか…?


第27話 昼頃に出勤して午後4時には帰宅する春日十々子の奇妙な仕事

 さすがにてきとうすぎやしませんか? 原作だとあんこトーストの回は2人ともまるまるオフだった気がしますが。ちなみに、親から逃げるための引っ越しだったのに2人ともすっかり忘れてのんびりやっているのは原作通りです。


第27話 2人の関係を「友達」と名乗ったことに謝罪する野本ユキ

 あれ? 確か、ドラマ版では矢子可菜芽に初めて顔を合わせた時も「仲良く食事する関係で~」とかごまかしてませんでしたっけ? ネットで知り合っただけの関係の相手に言えなかったのは平気なくせして、今になって何を言っているのでしょうか?

 そもそも、2人そろって被差別意識が強かったにも関わらず不動産屋や大家さんにはどう説明するか何も考えていなかったのはあまりにもマヌケじゃないでしょうか。これが本当に大人の女性を描くドラマなんでしょうか…?

 ちなみに「LGBTフレンドリー」みたいな大家側のアピール欄を【透明化】して探しているのは原作通りです。


第27話 男女なら結婚前提の真剣交際なのに、同性カップルは真剣交際にならない…と悩む

 え? この2人、同性婚が可能な法体制ならもう結婚前提の関係になってたということなんでしょうか…? どうせ同性では結婚できないからって、てきとうすぎじゃないですか? このドラマでは日数の経過が説明されておりませんが、例の告白回から1ヶ月も経っていない気がしますけど。妊娠しちゃってて、それでファミリー物件を急ぎで探してるとか、そういう状態でしたっけ?

(※第26話冒頭を見返したら、最初の不動産屋の場面では「家を探し始めてから2週間くらい」みたいなセリフがありました。バレンタインの日から2週間程度の設定かもしれません。)

 そもそもこの2人の言う「真剣交際」とは何なのでしょうか? 未だにキスもしていないし、なおかつそういうシーンを省いたドラマだからキスしていないわけでもなく、この後の最終回になって初めてやるみたいなことになっています。性のマッチングすら確認し終わっていない2人が「真剣交際」を持ち出して不遇を嘆くのは、あまりに同性愛者を人間として見ていなさすぎではないでしょうか。まあ、その点は原作通りなのですが、ドラマ版が他の回の原作順序をいじりまくっておきながら、あえてこの順番になっているのは、改悪に十分相当するでしょう。

 日本の法律婚では扶養義務や貞操義務などといった義務があり、それがまた入居者の信用へと繋がっています。例えば、春日十々子が倒れて働けなくなった時、野本ユキは1人で支えるつもりがあるということでしょうか。そこまでの言及ができてこその「真剣交際」ではないでしょうか。


第27話 蛇足極まりないレシピ

つくり方
1 食パンをトースターで焼き色がつくまで焼く。
2 あんこ、バターをのせる。
3 トースターでバターがお好みの状態になるまで再度焼く。

あんバタートーストのレシピ・作り方 - 作りたい女と食べたい女 - NHK

 これをレシピとして紹介するなら、野菜たっぷりポトフのレシピとかもあったほうがよかったのでは?


第28話 矢子可菜芽、調理器具を買ってから誘ってくるという地獄の友達付き合い

 原作では上記のように話の流れで買うという散財っぷりでしたが、なんとドラマ版では買っておいてからタコパに誘おうとする、厄介な友人ムーブをきめてしまいました。そんなことされたら断りづらいじゃないですか。そして「作らない女」のコンセプトは一体どこへ…!?


第28話 ヘテロセクシュアル同僚にペラペラ喋ってるくせに「同性カップルだなんて言えない!」と矛盾がしつこい野本ユキ

 もう誰もおぼえておりませんが、野本ユキと佐山千春は別に仲が良かったわけではまったくなく、何なら野本ユキは友達いない設定だったわけです。結局野本ユキがオープンにできない理由は何なのでしょうか。原作と同じように野本ユキ自身が同性愛者を差別している以外に何もないのですが。


第28話 交際開始から推定一ヶ月未満の野本ユキが結婚で頭いっぱい

ゆざきさかおみ:著 『作りたい女と食べたい女 4』
2023年6月15日初版発行 第36話より
「私たち付き合いたてだし個室はあったほうがいいですよね…」(もにゃもにゃ)

 ドラマ版第27話の冒頭から違和感がすごいのですが、原作ではまだ付き合いたてという前提はありました。それが、ドラマ版では野本ユキの思考が一気に結婚にまで飛び出していて、違和感がすごいです。いくら話の都合とはいえ、脚本家は「同性愛者のあらゆるすべての交際=法的には認められないけど結婚」とでも思っているのでしょうか。


第28話 ドラマスタッフの思想が強い上に、原作サイドと対立している

 結婚したらゴールとか、今のドラマでもそういう感覚で作っているものが多いのかどうか、私にはよくわからないのですが、少なくともドラマ版『つくたべ』というのは結婚敵視がひどすぎるように感じます。ドラマ版は別に法的関係にこだわらない関係のあり方を理想のひとつとして提示しているわけでもなく、ただ単に結婚を“人生の墓場”として扱っているだけにしか見えません。そして、そういった思想が原作のどこかに断片としてあるのかと考えても、やっぱりまったく見えてきません。ドラマスタッフは原作を素材にして自分たちの思想を勝手に表現しているように見えてきてしまいます。

 そんな原作の素材化を繕うために飛び出てきたのが、「自分が結婚できる立場だから言えることだなって」「野本さんのことを全然何も考えないで口にしてしまってすみませんでした」です。第28話でここまで結婚をネガティブに描いたら、「別に結婚制度にこだわらなくてもいいのでは…」という印象を視聴者に与えてしまっているのに、「お詫びしちゃいました! 配慮できました!」はマジョリティの自己満足がひどすぎます。


第29話 矢子可菜芽、何故かたこ焼き器を訪問先に置いて帰宅する

 引っ越しの日までに都合がつかなくて取りに来れなかったらどうするつもりなんでしょうかね…? 春日十々子が頑なに車で客人を送迎しないのは原作通りです。


第29話 実写映像化された南雲世奈の画が原作漫画よりもきつい

 1人放置されてすることなさそうにしている姿、見ててとてもいたたまれなかったです。確かにこのあたりは原作通りではあるのですが、映像化する際には手を加えないとどうしようもない部分でしょう。そもそも、このドラマは原作だとモノローグになっているのを実写映像作品仕様で人物同士の会話と入れ替えているように感じるのですが、ここに来て原作通りにするのは、肝心な部分を手抜きしている印象を受けました。


第29話 天貝役の演技が事故

 あまりもの棒読みに視聴者騒然となった天貝役の人の演技ですが、どうも演じたのは当事者枠だったようです。ただ、不思議なことに天貝役について演じた本人を除くと公式SNS・サイトからの発信がまったくありません。これでは何故明らかに本職ではない方が演じたのかよくわかりません。後から触れるにしても、放送から1時間以内に告知しなければ遅すぎます。

 ちなみに、当事者不動産屋に行っても収入と家賃の問題がまったく出てこないところや、春日十々子が親に絶縁宣言して揉めてるのを隠し一般的な同性愛者差別のシチュエーションにごまかしているところなどは原作通りです。


第30話 野本さんの貧困カニクリームコロッケ

 野本ユキと春日十々子が2人でコロッケを大量に揚げる描写は原作2巻描き下ろし漫画に存在しているのですが、どのようなコロッケなのかは言及が一切ありません。その原作描写からなんと、ドラマ版ではポテトコロッケとカニクリームコロッケをダブルで同時に大量製作するという大盤振る舞いです。ドラマはその後にハグだのキスだのやりますが、大量のコロッケの後にはちょっと遠慮したいなあと思いました。


第30話 会食恐怖症が回復に向かい何もかも上手く行きそうな南雲世奈

 最終話に関しては、「同性カップルは家を借りられなくてつらい!」をやった後になって初めてハグだのキスだの言い出すおかしさとか、そういう部分はだいたい原作通りです。

 そのなかで、南雲世奈がイベント式のハローワークで「しゃべるのが好きなので~」みたいなことを明るい顔で語っているのに違和感がありました。おそらく視聴者は「南雲世奈は会食恐怖症が治り、仕事に対しても積極的に向かえるようになった」と受け取ったでしょう。これは裏を返すと、「会食恐怖症で仕事も不能になった」とも解釈できるわけであり、そうすると会食恐怖症は仕事にも支障をきたす精神疾患だという偏見を視聴者に与えていることになります。

 しかし、「昼食の場を個別にとらせて欲しい」という当事者の要望はよくありますが、「会食恐怖症で仕事が困難」という訴えは原作『つくたべ』の参考文献からは特に見られません。それどころか、仕事自体は社交不安障害を避けられているケースばかりです。テレビドラマのストーリーをきれいにまとめるためという、現実の人間の尊厳と比べたら極めてつまらない物のために、実在の精神疾患のようなデリケートなものを雑に扱うのは、公共の放送でやるべきではないでしょう。

 現にドラマ版『つくたべ』の公式サイトが紹介したNHKの特集ページによると、友達とは仲良くやっている会食恐怖の当事者が取材されています。


最終週にやけに目立つ、つくたべドラマの配慮の無さ

 番組の制作統括や脚本の担当者による発信には「配慮」という言葉が出てきますが、その配慮は残念ながら原作同様に小さな世界観に限定されたものであり、自画自賛ばかりに熱心であるのは決して好ましい姿勢ではありません。

 それと、前作について、あいこがともこの家事能力を搾取しているという感想をSNSで見かけたんですよね。自分としては、そうならないように家賃の支払いはあいこが多め、ともこが家事をしてくれることへの感謝を示すなど、二人を対等に描いたつもりだったんですけど、そういう反応があるということは何か拾いきれていないものがあったのかなと思いました。

「今夜すきやきだよ」「今夜すきやきじゃないけど」谷口菜津子さんインタビュー 普通の結婚、本当の幸せって何?|好書好日

 ジェンダー問題を上手くエンタメに落とし込んだ傑作『今夜すきやきだよ』の作者の方はインタビューのなかで上記のように自身の足りなさへの反省を語っていたりします。

 そのような謙虚さが『つくたべ』のドラマスタッフにはあるのかどうか、ちょっと疑わしく感じます。






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