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しまなみ街道の風。

 プロント52丁、リア11丁。フレンチバルブの高圧タイヤは空気圧をめいっぱいまで高めてある。
 気持ち、最高潮。都心に比べれば3°Cほど低く過ごしいいにしても、梅雨明け瀬戸内の夏は鋭利な紫外線に容赦はなく、ピークに達した日差しが肌を焦がす。
 誰だ? ここが聖地なんて言いだしたのは。おかげで走らざるを得なくなっちゃったじゃないか。
 途中、水分補給できる休息地はある。だが橋の途中でへばるわけにもいかない。ダホンのミニベロ、折り畳みで重量は軽いとはいえないけれども、電チャリと違って踏ん張れる距離が違うぶん、踏ん張る乗り手の持続力維持が重要だった。ボトル1本分の水分を確保して、いざ。

 誤算は、想定以上の高低差にあった。しまなみ海道の快走ルートでの休息は、橋梁を降りなければならなかった。下りはいいが、いったん地べたまで降りて休息を取れば、宙を抜けるように続く夢のサイクリングロードへ戻るのに、地獄の登りが待っていた。

 ひいこら、漕ぐ。抜かれてもめげることなく、漕ぐ。
 ひたすら、漕ぐ。限界間近まで。そして、止まる。
 根性は、思いのほか早く折れる。

 やっぱり、電チャリにすればよかったか。
 それとも。
 まだ走り切ったわけでもないのに、次来る時には原ニ(原付2種、125CCまでのオートバイ)にしようと心に決める。
 まだ走り切ったわけでもないのに。
 次に期待をつなぐために、息が整ったところで再びペダルを漕ぎ出した。
 道程は長く、サイクリングロードの本線はまだ頭上高くにある。
 それでも、はるばる苦労しにやってきたことに後悔はなかった。

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