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このまま書き進めてもだいじょぶかしら? なんだかSFチックになってきちゃった。
子供のころから壮大な宇宙に憧れ、冒険ものや科学空想ものにのめり込んでいた私は、まるで女の子らしい時間を過ごしてこなかった。幼少期の女子の成長は男の子より早く、その波に乗り、わんぱく坊主どもを従えてもいた。ちんまりまとまった男子を尻目に、私は誰よりも大きな夢を描いていた。宇宙自体を研究するか、宇宙工学に携わる仕事に就きたかった。
今は変えようもなかった現実の壁に弾き飛ばされ、宇宙とは無縁な仕事をしているけれど、封印したはずの思い出箱に亀裂が生じて、エキスが漏れ出したしまったのだと思う。描く作品世界は立ちはだかった現実の壁を回避して、かつての夢想とつながっている。
人の決心ほど、不確かな蜃気楼はない。私と美留香がこんなふうになってしまったのだって。
美留香は明日の仕事に差し障るといって、日曜日の夕食前にはここをあとにする。
「じゃあね」と角を落とした笑顔で美留香はドアを出てから小さく手を振る。それから軽く唇を合わせる。深追いのないキスは、区切りのキスだ。廊下を歩き階下へ向かう【▼】ボタンを押す。しばらくすると扉が開き、エレベーターに乗り込むまで美留香は玄関から顔を覗かせる私に目を向けることはない。彼女の私との時間は、区切りのキスで終わっている。
ひとり残された部屋で、続きを書いていた。書きながら、美留香の指遣いを思い出す。じゅんとした。
指を滑り込ませようと思う。だけど確かめてしまうと、途中でやめられなくなる。
美留香は、手練手管のテクニックでBL世界を描いていく。そのレベルは私のよりはるかに高い。ただし、今の時点では、ということだ。水の差を開けられている現実に目を移せば忸怩たる思いを感じてしまう。当の彼女はネコに徹しているけれども、女に徹しているからこそ、女の私を男を操るみたいに弄んで楽しんでいる。ここにも忸怩がある。
悔しさが体の芯に灯ると、通り過ぎていったはずの官能が呼び戻されて、殿にされるがままに帯を解かれるか弱き女になってしまう。キーボードに置いていた指先が、誘惑に負けてしまう。帯をほどく殿様が悪いのだ。
〈第2話 終わり 続く〉
※気が向いた時に続編を考えていこうと思います。
書き当たりばったりなので、展開は未定です。
アイデアやご感想、この世界の見聞録がございましたら教えていただければと思います。