ゾウの時間 ネズミの時間 人の弛緩。
ふとした時に、まるで関係のないことを思い浮かべることがある。
記憶の配線が複雑ということだろうか。
もしや狂いが生じて、とは思いたくもない。
『ゾウの時間 ネズミの時間』もそんな気まぐれな記憶のいたずらによる。
これは、1992年に中公新書から発行された書物のタイトル。
生物学者・本川達雄先生の執筆によるものだ。
曰く。どの動物も「一生のうちに心臓が20億回打ち、呼吸が3億回行われる」
ゾウもネズミもヒトも変わらないという。
心臓は、躯体の重さの4分の1乗に比例して打たれるらしく、簡単に解釈すれば体重が重いほど時間がゆるりと流れることになる。
昨今、ペットの寿命が伸びた話をよく聞く。
生活環境の変化によるものか、体が昔より大きくなっているせいかもしれない。
人の体も大きくなっている。
古着屋で着物を探すとき、どれもが小さく、体型に合うものが皆無であることからも歴然とした事実であることがわかる。
この理論の延長線に立てば、昨今の長寿は体が大きくなり、心臓の鼓動がゆったりと打つようになったから、ということになる。
鼓動のサイクルは思考と深く結びついており、たとえば体の小さな幼少時の時間が濃厚に感じられるのはこのため、と紹介する論調もある。
大人になれば、思考は鼓動に合わせてたゆたうようになる。
体の大きくなった現代人は、理論的には以前より暢気(のんき)になっていると言い換えることもできそうだ。
なのに社会ときたら逆流をつくり、人を急かすようになった。
社会の躯体は小さくなっている。
少し緩めてほしいものです。