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姫と彼女。

 お月様は誠実だ。いつ何時でも、地上に雲がかかっても霞のかかることのない純粋な気持ちで、いつだってお日様ばかりを気にしてる。うちの彼女と大違い。

 空にぽっかりお月様、まんまる姿の満面は、地球の存在なんて微塵も眼中になく、アース・スルーで反対側に浮かぶお日様をじっと凝視しているんだね。いつ何時でも揺らぎなく、見つめる眼差しに曇りなく、衛星なのに恒星のごとく熱く情熱燃やしてる。ベッドで熱くも服着りゃ冷める、うちの彼女もお月様のようであったなら。

「今夜はだめ」
『なぜ?』
「お友達がくるからね」
 そういや一度もお友達を紹介してもらったことなんてなかったよ。どんなお友達かは、一度も話してくれたことさえなかったし。孤高に浮かぶ月は、その裏側で、どんな秘め事してるというの?

「今夜はだめ」
『なぜ?』
「お役にたてないから」
 彼女の女の子の日は、たまに月に三度やってくる。
「そういう女性もいるんだよ」
『ふうん』
 騙し切れると自負していても、僕にも信じちゃいないことがある。

 月に戻ったかぐや姫、姫は今ごろなに見てる? 地上にいるとき見上げてた月も、月に戻れば月面からは青くたゆたう儚い夢星、そこに流れるちっぽけな浮浪雲いく筋かあって、郷愁を誘われて思い出のあれこれを見つめているのかもしれないね。

「月から見た地球だって、いっつもお日様ばかりに目を向けているんだわ」
 そこまで言って姫は寂しい顔をする。

 姫は今日も一途に地球を見つめてる。一途のふりをするうちの彼女と大違い。






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