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艶やかな夜

あの頃の私たちと言ったら、
夜の中を彷徨う人、そのものだった。

暗がりに怯えては、暗がりに潜り込む
矛盾した存在。

あの夜は、
春の宴に迷い込んでいた。

夜桜に赤提灯。
桜の下で宴をひらく人の波。
声か歌かもわからない音の波。

昼間は静寂に包まれたその場所が、
この季節だけは艶やかな世界に変わる。

私たちは、一緒に歩く。

ただ魅せられる
夜と薄紅の世界に。