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寂しさを蹴る

秋の夕時
ベタが死んだ

ゲーセンのUFOキャッチャーで
手に入れた、真っ赤な闘魚

気性は荒いが
赤い羽衣のようなヒレが
水中を踊るように漂う
その姿がとても美しかった

生まれてはじめて
自分でお世話した魚だったから
とてもショックだった

気がついたら
窓の外はもう夜だった

君と2人
近くの公園の花壇に埋めた

盛られた土が白い街灯に
寂しく照らされていた

新しい靴は靴ずれをおこして
裸足になってブランコに座る

小さな命でさえ
失ってしまうと
心のどこかに穴が空く
空虚にブランコをこぐ

小さなサッカーボールが
足元に転がってきた

寂しさと一緒に蹴りかえす

何度も転がってくるから
つい躍起になって蹴りかえす

足はもう砂まみれになっていた
夏の終わりの夜風が
身体を冷やしていく

コンビニの光が逆光になって
君の顔はみえない

君はどんな気持ちだろうか

ベタをそっと土に置く時の
寂しいそうな横顔が
頭をよぎる

私たちはしばらく
それぞれの寂しさを
交互に蹴りあっていた