見出し画像

この子 *並行story2.0

物心ついた時、父はもういなかった。

親戚が噂をするのを聞くと、
漁に行った先の、他の島の女のところで
暮らしているらしい。
 
母はそれにショックを受けたかのように、
病がちになり、ついには命まで落としてしまった。

1人になった私は、自分の家をおじさん夫婦に
渡し、従兄弟たちと生活していくことになった。

こんな島絶対に出ていく。

誓いと振り切れない孤独を抱えたまま、
私は大人になった。

そしてあの日、神社の修理のために
島を訪れたあなたに出会った。

お互いにひとめあった時から、
惹かれあっていた。

私はあなたとともに島を出て、
新しい暮らしをはじめた。

自転車に乗って、家や神社の修理に
まわるあなたを見送る日々。

子供にも4人恵まれた。
私の人生で一番幸せな時だった。

でもその幸せも長くは続かなかった。
長女とあなたは流行り病にかかり、
あっけなく逝ってしまった。

私はこれから3人の子供たちを育てて、
生きて行かなければならない。

この子たちのために生きてみせる。
この子達は、私が守ってみせる。

そう決意するも、
世には戦争による陰りがみえはじめた。

長男は、国を守る兵隊に憧れ、
反対を押し切り入隊してしまった。

彼もまた幼くして父を失い、
心の奥に彼なりの孤独を抱えていた。
それは勇ましく活躍する男たちへの憧れとなった。

いつも船の絵を描いていた可愛い男の子。
私はあなたまで失ってしまなければいけないのか。

あなた達の命より、私の大切なものはないのに。
どうかそれを奪わないで。

千人針に糸を通し、
その命が私のもとに戻ってくるようにと祈る。

-----
半分の真実と半分の想像の物語