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光の舞う夜 *story

坂道をくだる

深い森から流れてくる小川の横に
蛍の幼虫を育てる小屋がある

そこは、あなたの小さな仕事部屋だった

「今日の夜は、蛍をみにいこうか」

相変わらず穏やかで静かな物腰のあなたに、
おてんばでちっちゃな私は
なんだかいつも調子がくるってしまう

あたりが夕闇に包まれたころ、
あなたが呼びにやってきた

清流が流れる、谷の間の村

深い森の匂いと薪の燃える匂い、
澄んだ星明かりと家々の小さな明かり、
昔からの景色が残る場所

川沿いの道に出ると、
そこはあたり一面
光の海になっていた

そうか、今日は新月で綺麗にみえるから
あなたは誘ってくれたのか

言葉数が少ないあなたの考えは
目的地に着くまでいつも分からない
?を浮かべたままついていくのは
私の冒険心をくすぐってくれた

あなたが大切に育てた幼虫たちも、
きっとあの光の中にいるのだろう

何度もみる景色なのに
いつもはじめてのように心を動かされる

珍しく手の中に輝く光がおりてきた

「火傷しちゃうから、そっと離してあげてね」

蛍は人間の体温よりずっと低いから、
人が触らないほうがいいのだと教えてくれた

幻想的。
その言葉の意味もよくわかっていなかったけど、
こういう感じをそういうのだと、
子どもながらに感じていた

言葉にできないほどの、
光が闇夜を舞う美しさ
人が創ることのできない命の輝き

夜はさらに深くなっていく

「そろそろ帰ろうか」

帰りの坂道で、空を見上げると
そこにも、見たことの無いほどの
星たちが散らばっていた

星明かりに照らされた
あなたの顔はとても驚いていた
その瞳にさえも星の光が映っている

私たちはふたりとも
いつも見逃していたのだろう
真上に輝いているその星たちを

家の明かりがみえた
夢のような時間は、
あっという間に終わりを告げる

あの光と命が輝く夜を
今でも心の奥に大事にしまっている