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魔法少女の系譜、その48~『超少女明日香』、補足~


 前回までで、『超少女 明日香』については、終わるつもりでした。
 けれども、二つばかり、書き残したことがありますので、もう少しだけ、続きます。

 書き残したことの一つは、明日香の髪の色問題です。
 『超少女 明日香』は、ついにアニメ化されることのなかった漫画作品です。ですから、日本のアニメにおける、異様にカラフルな髪の色問題とは、関わりなさそうですね?

 ところが、漫画作品にも、カラーページというものがあります。カラーページの明日香を見ると、髪の色が、ピンクなんですね。自然な状態では、あり得ない色です。

 この髪の色は、『魔女っ子メグちゃん』における、ノンの髪の色と、同じなのでしょうか?
 つまり、物語世界の人々には、「正常な髪の色だ」と認識されているけれど、読者や視聴者には、「特殊な人、魔法少女だ」とわかる、記号なのかということです。

 結論を先に書けば、明日香の髪の色は、「魔法少女」の記号ではありません。
 なぜ、それがわかるかといえば、『明日香』作者の和田慎二さんの他の作品と、比べられるからです。

 和田さんの代表作は、『超少女 明日香』と、もう一つ、『スケバン刑事【デカ】』でしょう。
 『スケバン刑事』のヒロイン、麻宮サキは、戦闘少女ですが、魔法少女ではありません。肉体的には、頑丈ではあるものの、普通の人間です。
 ですが、『スケバン刑事』のカラーページを見ると、麻宮サキの髪の色も、やはり、ピンクです。

 想像するに、和田さんは、ピンクがお好きだったのではないでしょうか?
 あるいは、きつく見られがちな「戦闘少女」の印象を和らげるために、ピンクという色を採用したのかも知れません。
 サキや明日香の髪の色を、ピンクという常識はずれな色にした理由は、それくらいしか、思いつきません。

 日本のアニメで、最初に髪の色をカラフルにしたのは、『伝説巨神イデオン』だといわれます。それには、私も、おおむね賛成です。
 ただし、『イデオン』のカラフルな髪の色は、いきなり出てきたものではありません。ちゃんと、その前から、そうなる流れがありました。

 髪の色をめぐっては、『魔法少女の系譜』シリーズで、『海のトリトン』や『魔女っ子メグちゃん』を取り上げましたね。トリトンやノンは、人間ではない異類の象徴として、人間にはあり得ない髪の色をしていました。
 『イデオン』になって、異様な髪の色が、異類ばかりでなく、普通の人間にまで、広げられました。

 けれども、アニメに近しい漫画の世界では、『イデオン』より前から、「普通の人間に、人間にはあり得ない髪の色をさせる」ことがありました。
 『イデオン』の放映が始まったのは、昭和五十五年(一九八〇年)です。『超少女 明日香』の連載が始まったのは、その五年前、昭和五十年(一九七五年)です。『スケバン刑事』の連載が始まったのも、『明日香』と同じ昭和五十年(一九七五年)です。

 遅くとも、昭和五十年(一九七五年)の時点で、「漫画のカラーページで、普通の人間の髪の色を、普通でない色で塗る」ことが、始まっていました。
 この流れがあったからこそ、アニメでも、「普通の人の髪の色をカラフルにする」発想が出たのではないでしょうか。

 年季の入ったおたくの方々なら、ここに私が書いたことは、「当たり前過ぎて、いちいち言うほどでもない」と感じられるでしょう。
 しかし、そのように「当たり前過ぎる」ことでも、書いておかないと、後世に残りません。
 「当たり前過ぎる」ことは、わざわざ言及する人が少ないです。そのために、時間が経ってしまうと、かえってわからなくなってしまいます。

 現に、『魔法少女の系譜』シリーズの読者さんの中には、『明日香』の連載が始まった頃、生まれていなかった方が、おおぜいいらっしゃいます。生まれる前のことを知るには、誰かが書いたり、映像に撮ったりしたものを介するしか、ありませんよね。
 こんなネットの片隅で、微力ながら、記録しておこうと思った次第です。

 これは、余談ですが。
 もし、『明日香』が、連載始まって間もない頃に、アニメ化されていたら、明日香の髪の色は、何色にされたでしょうね?
 原作のイメージを重んじるなら、ピンクにするしかありません。その場合は、『魔女っ子メグちゃん』のノンと、同じ解釈をされたでしょう。「視聴者にだけわかる、魔法少女のしるし」です。
 『イデオン』より前であれば、「普通の人間が、ピンクの髪をしている」という解釈は、まず、されなかったことと思います。実際、明日香は「魔法少女」の一種である超能力少女ですしね。

 つくづく、『明日香』が、アニメ化されていないことが、惜しまれます。
 私の考えでは、『明日香』は、一九八〇年代か、遅くも一九九〇年代前半までに、アニメ化されるべきでした。それ以降、ネットと携帯電話が発達した時代には、『明日香』の超能力の輝きが、失せてしまいます。

 余談は、これくらいにして、もう一つ、書き残した話題へ行きましょう。
 『明日香』のシリーズの中の一作「ふたりの明日香」には、注目すべき題材が登場します。明日香にそっくりな芸能人が出てくるのです。
 もちろん、普段のお手伝いさん姿の明日香に似ているのではありません。超能力を使う時の、美少女明日香と瓜二つです。

 その少女の名は、葵今日子【あおい きょうこ】といいます。とても人気のあるアイドル歌手です。
 のちに、今日子も、砂神村の出身だとわかります。幼い頃に山から里に下ろされて、養子に出されていました。
 今日子は、自分と血がつながった家族を知りません。砂神一族についての知識は、皆無です。超能力も、使えません。明日香と違って、ゴキブリも平気です(笑)

 明日香は、今日子を同じ一族の者ではないかと考えて、今日子の付き人として、芸能界に潜入します。明日香の考えは、正しかったわけですね。

 「ふたりの明日香」は、「魔法少女+芸能界」という、二〇一六年現在では、ありがちな題材の先駆けです。
 「魔法少女+芸能界」といえば、テレビアニメ『魔法の天使クリィミーマミ』が、有名ですね。『クリィミーマミ』の放映が始まったのは、昭和五十八年(一九八三年)です。「ふたりの明日香」が雑誌に連載されたのは、昭和五十一年(一九七六年)です。『明日香』シリーズのほうが、七年、早いです。

 『明日香』については、ここまでとします。次こそは、新しい作品を紹介します。



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