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『日本発酵紀行』を読んで。

とんでもなくおもしろい本に出会った。

『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT PROJECT)、発酵デザイナー小倉ヒラクさんの本だ。

“発酵” “伝統”という地味な(でもない?)テーマの紀行文なのに、まるで冒険物語のようなダイナミックな展開。深い知識がちりばめられているので実用書としても使えるし、心のひだまで染みてくるエッセイ本でもある。

好きな部分はいくつもあるけど、ここがいちばんグッときた。

大事なのは『どうつくるか』ではなく『どうつくったか』だと思うんです。宮城県気仙沼にあるあざらという郷土食を作っている伏谷さんの言葉。

ヒラクさんも書いていたけど、わたしにもガツンと来た。「儀式」ではなく「発想」。スタイルではなくコンセプトこそが文化の核なのだ、とヒラクさん。そうだ、それだ、わたしが伝えたい文化はそこだ。

さらにこの本、内容がいいうえに、文章もかっこいい。

「現代空間のエアポケット」とか「プリミティブな調味料でセクシーな旨味」とか「ハタハタトランス」とか。このカタカナ使いが絶妙で、ヒラクさんが食べた味、見た景色が目の前に浮かんでくると同時に、ヒラクさんの興奮や感情もちゃんと伝わってくるのだ。

読み終わって、考えた。

この文章をかっこいいと思うのは、ヒラクさんの感性がかっこいいからだ。なぜかっこいいか。それは、今に生きる現代人のリアルな感覚で、伝統に向き合ってるからだ。伝統はいいものだ、とか、後世にのこそう、とか、そういう一般的な意見なぞどうでもよくて、ヒラクさんは、生身の人間として、じぶんが感じたことをそのまま伝えている。つまり、ヒラクさん自身が、心から「発酵文化、超かっこいいぜ!」と思っている、ということ。

この本の帯に書かれている、前代未聞の発酵文化論というのは、決して大げさじゃないです。

まるで、目にみえない微生物が、食材をいつの間にか別のものにつくり変えてしまうように、この本を読む前と、読んだあとでは、わたしの感覚が変わった気がする。わたしはきっと、前よりおいしくなった。読んでよかった。

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マレーシア料理にいちばんよく使う発酵といえば「ブラチャン」。アミエビを塩漬けにして長期熟成し、ペーストにしたもの。濃厚な香りが食欲をそそります。この写真、手前のお皿に入ってるのが、サンバル・ブラチャン。ブラチャン入りの唐辛子ペーストです。ココナッツミルクで炊いたご飯「ナシレマッ」に混ぜてどうぞ。こちらの青いニョニャ・ナシレマッは、3月17日より、渋谷の偏愛食堂に登場します。

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