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マレーシアの麺料理が楽しいわけ。

例年だと年に3回は、仕事やリサーチでマレーシアにいく。

食文化を専門にしているので、滞在中は、あれも食べたい、これも食べたい、となる。しかし、くやしいことに、人並みサイズの胃袋しか持っておらず、旅のあいだに何を食べるかはいつも真剣勝負だ(大げさか)。

そんな状況で選んだごはんを俯瞰してみてみたら、日本にいるときより3倍ぐらい多く食べている料理があることに気づいた。

料理というよりジャンルですね。
それは、麺である。

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自信をもっていおう。マレーシアの麺は、世界最高レベルだ。

とんでもなくバラエティに富んでいて、どれもとってもおいしい。麺好きなら、まちがいなく天国だと思う。

思い浮かぶままに名前を挙げると、
ミーゴレン、ワンタンミー(雲吞麺)、カレーミー、チャークイティオ(炒粿條)、ラクサ、パンミー(板麺)、イーミー(伊麺)、ポークヌードル(猪肉粉)、ビーフヌードル(牛麺)、フィッシュボールヌードル(魚丸粉)、ローミー(鹵麺)、ホッケンミー(福建麺)、ハッカミー(客家麺)、ミースア、コロミー(干捞面)、クエチャップ(粿什)、ワッタンフォー(滑蛋河)、フォーファン(河粉)、ハーミー(蝦麺)、チーチョンファン(豚腸粉)、ミールブス、ミージャワ、ミーウダン、といった具合に多種多彩。

名前にある「ミー」や「麺」は小麦麺。「ファン」「クイティオ」「粉」は米麺。小麦麺も米麺もどちらも人気で、麺の形状は、細麺、太麺、平打ち麺、ちぎり麺、ロール状に巻いたものなどさまざま。

スープは、鶏ガラ、牛骨、魚だし、海老だし、漢方系、カレー味など。肉や海鮮でとった出汁タイプから、スパイス入りのコク深いものまである。さらに、とろり溶き卵入りのあんかけ、スープ無しでは、強火でカラッと炒めた焼き麺、日本でいう油そばに近い香味ダレをからめたものもおなじみだ。

ちなみに、日本でもラーメンやそばが専門店の味であるように、1屋台=1麺が基本。麺の自家製はあたりまえで、店で作っていない場合は、その日の朝に製麵所から生麺がとどく。フレッシュな生麺でつくる麺料理のおいしさといったら! もうたまらんのです。


……あぁ、妄想していたら、食べたさがつのります……

さて、なぜ、こんなにバラエティ豊かというと。

マレーシアの麺は、名前に漢字があるように、中国由来のものがほとんど。そこに、東南アジアらしい唐辛子やスパイスなどの食材が加わり多様な味になった模様。また、暑いなかでさっと食べられる汁なしのドライ麺が発展したのも南国マレーシアらしさだ。

そしてもうひとつ。郷土色の濃さが、麺文化にも影響を与えている。歴史的にイギリスの占領下になる19 世紀以前のマレーシアは、ひとつの国ではなく、小さな王国の集まりに近い状態であったため、食文化はローカル色が強い。たとえば「ラクサ」という麺料理は、地方ごとに味が異なり、ペナンの「ペナンラクサ」は魚だしで酸味のあるもの、一方、ボルネオ島の「サラワクラクサ」は胡椒など多種のスパイスにココナツミルクを加えたものになる。同じ「ラクサ」という名前なのがふしぎなぐらい別ものだ。


で、それで、だ。
この note を書きながら気付いたことがもうひとつ。

わたしが日本にいるときより3倍も麺活をするのは、これらの麺がおいしいことに加えて、これらの麺との向き合い方が好きなのだ。

今日はどの麺料理でいくか。調理法はどうするか。麺の形状はどれにするか。1種でいくかミックスにするか。そんなあれこれを注文のときに真剣に考えて、ひとつひとつ自分で決めていくのがとても楽しい。

屋台によっては、麺の本数(2本くださいとか、今日は3本ね、とか)まで注文を求められたり、麺の具を選ぶよう最後に迫られたりと気が抜けない。だから、注文した麺が目の前に現れると、なんというか、達成感がむくむく湧いてくる。この麺こそが、わたしが食べたいものだ、という実感。それは、単に店の味ではなく、その日のわたしによってカスタマイズされた一期一会の味。


麺をゆで、湯切りをし、ぐつぐつ煮込まれたスープをじゃっと丼に注ぐおじちゃんや、左手のうちわでパタパタ火をあおりつつ、右手のヘラで麺を豪快に炒めるおばちゃんを見ながら麺をすする。それはまるで「料理の鉄人」のようなエンターテインメント料理番組の観客席で、鉄人が作った料理を食べているような高揚感がある。自動的に小皿でついてきた辛みダレをどのタイミングで麺に加えるかを悩む時間もまた、あぁ、至福。

マレーシアの麺に出会えてよかった。

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