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夢を語ろう

11月に客室乗務員の講師として「青空教室」なるものに携わった。
生徒は某小学校の6年生19名。
この学校の6年生は19名しかいない。
前の月に突然声が掛かり、小学生相手に簡単な講義をすると聞いて甘く見ていた。
私の中のイメージでは、パイロットや整備士やグランドスタッフや客室乗務員など様々な航空関係の職業が集まり、プチキッザニアの様な職業体験をする教室かと思っていた。
しかし、送られて来たタイムスケジュールを確認すると

9:00 指定場所に集合&出発
9:55 〇〇小学校到着・準備
10:25-10:55 青空教室①地元の役所パート
10:55-12:00 青空教室②客室乗務員パート(休憩・質疑応答含む)
       開始15分後の11:10~11:20で3時間目と4時間目の休み時間が入ります。
13:00 指定場所に到着・解散

地元の役所パートでは、小学生達が住んでいる町や空港の勉強、私のパートでは客室乗務員の仕事の紹介と体験を行う。
両者のパートを通し、空港に携わる仕事に興味を持って貰い将来就きたい職業として意識して欲しいというのが狙いだ。

なぜか「客室乗務員パート」が長い。
そして他の職業の人がいない。
約1時間アラフォーCAのひとり喋りで19人の12歳を相手に満足させられるのか…概要を知って急に不安になる。


当日、女性の社員さんと待ち合わせをして車で小学校へ向かう。
ひとりである事に驚いたと伝えると、本来は様々な業種の人間を集めて開催したイベントだが、11月以降の飛行機利用需要回復の為にイベントに割く人員が不足しているとの事。
(客室乗務員が有り余ってる訳ではないけどね。)

生徒数の少ない小さな小学校に到着すると、自分が育った地元の小学校にどこか似た様な、でも違う様な不思議な感覚になった。
体育の授業なのだろう、4年生の生徒達が校舎の周りをマラソンしていた。
制服姿の私を不思議そうに眺めていたが、手を振ると皆んなで降り返してくれた。
校舎に入り、職員室に顔を出し校長先生に挨拶をする。
2時間目と3時間目の間の休み時間に3階の6年生の教室に案内される。
2時間目が書道の時間だった様で、生徒達は手を洗ったり書道の道具を洗ったりしていた。
私を含め見慣れない大人が5人教室に入ると、休み時間にも関わらず生徒達は慌てて席に着席してしんとしてしまった。
最前方に着席していた女の子達に話し掛ける。

「書き初めの練習してたって聞いたけど、何て書いたの?」
女の子①「ふふふ…『強い意志』」
女の子②「ふふふ…『強い意志』」
私「凄い!カッコ良いね。皆んなで決めたの?」
女の子①「先生が決めたの。(笑)」
私「そうなんだ。(笑)」

お揃いのぬいぐるみの様なペンケースを持った女の子2人は話し方まで似ていた。

ふと、黒板横のホワイトボードに目をやると

11月××日
【連絡】
・青空教室
・全校テスト(算数)
【持ち物】
・書き初め道具
【宿題】
・社会→調べ学習1人以上
本日のハイライト的なやつ

ホワイトボードに書かれた「青空教室」の周りに「わ〜い。」「やったっ!!」「楽しみだ〜。」「うぇ〜い」などと小さい字で落書きがしてあった。
とても嬉しい。

到着して5分も経っていないが、この19人の生徒達が可愛らしく感じた。

担任の先生にも挨拶をし、グループワークをする際に4人ずつの班になる事は可能かと相談した時に
「3人の班が出来てしまったり男女比がバラバラになっちゃいますけど、仲良い子と離れちゃったとか、そう言うの気にする子いますか?」
と質問した所
「いつもこのグループでやってますので大丈夫ですよ。皆んな仲良いです。普通の6年生より少し幼い所はありますが、素直な子達なんで宜しくお願いします。」
と言ってくれた。
生徒たちと先生の素敵な関係が垣間見れた。


地元の役所パートでは市の人口数や空港で働く人数、空港の広さをクイズ形式で学び、子供達は大盛り上がりだった。
「△△空港の敷地面積は東京ドーム何個分でしょう?」
という質問に、
「東京ドームが分かんない!」
と次々に言われてたじろぐ職員さんが面白かった。
私達が常識だと思う事も、地方の子供相手には伝わらない事があるのだ。

沢山のクイズで盛り上がった所で、ついに客室乗務員パートの時間が来てしまった。
まずはアイスブレイクと言う事で、自己紹介をする。
私が見本をやった後に、グループの中でお互いにやって貰う。

「私の名前は『大豆おとうふ』です。ニックネームは『大豆ちゃん』『おとちゃん』です。では皆んなもやってみましょう。」
各グループを回ると、すでに5年半生活を共にしたであろう友人同士にも関わらずニックネームで盛り上がっていた。
日焼けをしていて背が高い男の子は「ごぼう」と紹介していたのが可愛かった。


「私の好きな食べ物は『サンドイッチ』です。たまごのサンドイッチが一番好きです。最近食べたのは、今朝皆さんとお会いする前に元気を出す為に食べて来ました。皆さんもやってみましょう。」
またまたこれも大盛り上がりである。
「お母さんが作ったビッグハンバーグ」や「シフォンケーキ」と、女の子達は可愛らしい話題に花を咲かせていた。
「さっき掲示板見たけど、今日の給食はハンバーグなんだね?」と、ビッグハンバーグの子に話し掛ける。
「給食のハンバーグも2番目に好き!」と答えてくれた。



「私の好きだったイベントは遠足です。お母さんが作ってくれたサンドイッチを食べるのが好きでした。皆さんもやってみましょう。」
この質問では殆どの生徒達が「修学旅行」と答えていた。
先月行ったばかりの様だ。
「このキーホルダーはそこで買ったんだよ。」と見せてくれた。
イベントが中止になったりしている中で、友人と寝食を共にする修学旅行は貴重な体験になったのだろう。
僅か1時間しか経過してないが、それを楽しそうに私に説明してくれるこの子達が愛おしく思えて来た。


「私の好きな事は本を読む事です。小学生の頃は『ハリーポッター』や『ナルニア国物語』が大好きでした。」と話すと「ハリーポッター知ってる!」「ナルニアも知ってる!」と言ってくれて安心した。
今の子供達がどんな事が好きなのか分からず、回答に苦慮したテーマだった。
YouTubeが好きとかK-POPが好きとか言う子が多いだろうなと思っていたが、小学生達の回答は私の予想を超えていた。
「趣味は、妄想です!!」と大声で言う男の子。
それに周りの男の子達が「ぎゃはははは」とリアクションしている。
彼はクラスのムードメーカーなのであろう。
男の子達は少し思春期に片足を突っ込んでいる様で、私がグループの輪に入って話そうとすると急に静かになる。
それでも「こいつパイレーツ(オブカリビアンのテーマ曲)ピアノで弾けます!」と紹介してくれて、「えっ!凄いね!」と反応すると「4年の時だから。」とさり気なく更に実力はあるぞみたいなアピールをしていて可愛かった。


アイスブレイクで温まった所で簡単な職業体験のパートである。
と言っても、場所は教室で使える道具はテキスト以外何もなく、貸し出せる制服もない中で「体験」した気持ちになって貰えるかが心配だった。
テキストには飛行機の中に搭載されている物の写真と名前が記載されていて、一つひとつ問いかけながら説明して行く。

「ギャレー」「冷蔵庫」「お湯が出る蛇口」「メガフォン」「おもちゃ」「キャンディ」「毛布」「おむつ交換台」

「それでは、今から皆さんはキャビンアテンダントさんです。ここは飛んでいる飛行機の中です。赤ちゃんを連れたお母さんが一人できょろきょろと困った様子です。何をしてあげられるか、グループで考えてみましょう。」

各グループでは
「おもちゃで一緒に遊んであげる!」
「おもちゃ渡しておけば良いかな。」
と、おもちゃ=赤ちゃんの発想はすぐに出た様だ。

私「赤ちゃんって産まれたてで3キロくらいあるんだけど、皆んなだっこしてるの想像してみて。」
とヒントを出してみると

男の子①「3キロ?重い!」
私「両手で抱っこしてるって事は…トイレの扉とか…」
男の子①「トイレの扉開けてあげる!」
私「そうだね。優しいね。あとは、おむつ交換したいなぁってお母さんが思っていたら…」
男の子②「台を出してあげる!」
私「わぁ、凄く気が効くね。じゃあこれ、後で皆んなに発表してみようか。」

別のグループではアイデアが出なくて沈黙が続いていた。
私「さっき冷蔵庫の中にはリンゴジュースやお茶が入ってるって話したよね?皆んなはジュース飲むけど、赤ちゃんは何を飲むかな?」
女の子③「うーん…ミルク?」
私「そうだね!じゃあミルクって、粉にお湯を入れて作るんだけど、何かさっき説明したアイテムで使えそうな物ないかな?」
女の子③「あっ!お湯?」
男の子③「お湯だ!」
私「そうだね、お湯を使ってミルクを作ってあげる事が出来るね。皆んな良く気が付いたね。後で皆んなに発表してみようか。」

そして5つのグループは各々で考えた、赤ちゃんを連れたお母さんへのお手伝いを発表してくれた。
最初に「発表する人を決めておいてね。」と伝えていたからか、発表もスムーズで積極的だった。
大人になった今でもグループディスカッションをやるが、大人になればなる程こんな時にまごつく物だ。
誰も発表せず、「あ…じゃあ。」みたいに空気を読んで嫌々発表する大人は、12歳の彼らを見習うべきだ。


次のパートは「アナウンス」である。
「今は飛行機の中、急に揺れて来て『ベルト着用サイン』が点灯しました。今から私がアナウンスを入れますね。」

と伝え、普段のアナウンスを日本語と英語で行った。
特に英語のアナウンスをした時、子供達の目が輝き「うわっ」「すげー」と小さな感嘆が聞こえて来た。
アナウンスを終えると、生徒達だけでなく見学に来ていた先生達までもが拍手をしてくれた。
この時は流石に恥ずかしかった。

その後、5分間の練習時間を経て、皆んなで日本語のアナウンスを一緒に行った。
「ポイントはゆっくり、はっきり。最後の『揺れましても飛行の安全には影響ありませんのでご安心ください。』は、にっこり笑顔で優しい気持ちを伝えてね。」
とアドバイスをすると、皆んなが忠実にやってくれた。
誇らしげに自信を持ってアナウンスを読み上げている生徒達が本当に健気で可愛らしかった。


最後は質問コーナーであるが、ここでは沢山の質問が飛び交った。

「お給料はいくらですか?」(秘密です)
「今まで何ヵ国に行きましたか?」
「一番遠い国はどこですか?」
「今まで行った中で好きな国はどこですか?」
「スカーフの巻き方や髪型に決まりはありますか?」
「儲かりますか?」(2回目。しつこい)

意外とお金の質問が多くてびっくりした。
自分が小学生の頃、大人のお給料がいくらかなんて想像も付かなかったし100万円が大金だと思っていた。
今の子供達は「年収いくら」みたいな話でもしているのだろうか。


最後に、皆んなへメッセージを送った。
会社から渡された資料には「好きな言葉を伝えてください」としか書かれていない。

「皆さんは、夢はありますか?私は幼稚園の頃はお花屋さんになりたくて、小3の時は犬を飼い始めたのでペットショップの店員になりたいと言っていて、6年生の時はお洋服が好きだったのでデザイナーになりたいと言っていました。中学や高校になって英語や世界史を学び、もっと英語を使って海外で活躍したり世界遺産や有名な絵や景色を直接見たいと思う様になって、キャビンアテンダントになりたいと決めました。けれど、最初はキャビンアテンダントの試験は不合格で、違う仕事をしていました。それでも諦めずに挑戦して今の仕事に就けて、私は仕事がとても楽しいです。キャビンアテンダントになれて良かったなぁと感じます。
今、具体的な夢がある人はその夢を諦めないで下さい。今、夢がない人も安心してください。これから中学生になって様々な事を学ぶうちに、やりたい事がきっと見えて来ます。もしやりたい事が見付かったら、恐れずに挑戦して下さい。
皆さんの夢が叶う事を願ってます。」

最後にもう一度大きな拍手を貰い、「青空教室」は無事に終える事が出来た。
最後に子供達から「お礼の言葉」を貰い、なんだか少し泣きそうになった。
小学校の先生になったら毎日泣いてしまいそうだ。


37歳にして久々に「夢」を語った。

私の通っていた中学・高校では「夢は現実となる」と呪文の様に言われていた。
不思議な進学校で「東大に行け。全ての夢は東大に行けば現実となる」と擦り込みをしていた。
そして私は、当時は夢を語る事が嫌いだった。
年に一度「校長先生と夢を語る会」なるものまで開催され、代表生徒5名が自信満々に夢を語るイベントを嫌悪していた。

割と早い段階で「キャビンアテンダントになりたい」と秘めた思いを持っていた。
けれど、美人でもなく英語も出来ない自分の様な人間が、スッチーを目指しているなんて語ったら笑われるのではないかと怯えていた。
週に一度のホームルームの時間で何かと夢を言わせる時間があった。
私は毎回「夢はありますけど、何で他人に言う必要があるんですか?」と噛み付いていた。
実際は恥ずかしくて言えないだけだった。

大学受験も、航空会社への就職率が高い大学を狙って受けた。
大学3年の就職活動は航空会社しか受けなかった。
当時はいくら努力しても夢は叶わなかった。

そこから7年後に再挑戦してついに夢が叶った訳だが、その違いは何だったのか?
勿論、経験値もあるのだがそこにプラスして自分に備わったものは「自信」だと思う。
中学・高校・大学と私には「自信」が足りなかった。
美人ではないから…
英語が出来ないから…
そう負い目を感じてキャビンアテンダントになりたいとの夢を口にするのを憚っていた。

けれど、美人でないなら美人風なメイクや髪型や服装を研究すれば良いし、英語が出来ないなら勉強をするか他に卓越したスキルを身に付けてアピールすれば良いのだ。
美人風、出来る風、知っている風、に振る舞うのが得意になっていた私は「今受ければ受かるかも」と謎の自信に満ちていた。

「自信」を付ける事に必要だったのは、夢を語る事だったのかもしれないと今では思う。
中学・高校の時に「キャビンアテンダントになって世界で活躍したい」と言っていれば自信に繋がったのかもしれない。
大学の時「キャビンアテンダントになって玉の輿になる」と言っていればミスコンに出るくらい美人風になれたかもしれない。
私は「言葉は言霊」と信じているタイプだ。
口に出す事で叶う事もあると思う。


だから、子供達には夢を語って欲しい。

私が「夢はありますか?」と問いかけた時「野球選手」「ユーチューバー」「アナウンサー」「ギリシャに行く事(例の趣味が妄想の子)」と、様々な夢を教えてくれた19人の子供達。
君達の夢が叶います様に。



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