不老不死戦争 [ 其の零 ] 発端

かの大国ご自慢の大企業が、かねてより傘下企業に研究させていた不老不死を完成させたというリークが、まず出回った。

あまりに眉唾だったので、誰も信じようとしなかったし、すぐに忘れ去られた。

僕は当時は「また無闇矢鱈なコンテンツか?欺いているのかな?嘯いているのかな?」と思いつつも調べてみたのを記憶している。
情報ソースが全て同じリークサイトであった為、そこで端末を閉じたのことも何故だか印象的だった。


1ヶ月後、その傘下企業で爆発事故が発生。
世界中でニュースが放映され、世間を騒然とさせた。
陰謀主義者たちは「ほれみたことか」と色めきたった。
曰く、リークは事実であり、その証拠を隠す為に「事故」を起こしたのだと。
我々は確信しているのだと、彼らは強調した。
SNSや掲示板サイトは一種のお祭り状態になっていて、その話題で持ちきりだった。

数刻経ち、今度は事故についての記者会見があるというニュースが飛び込んだ。
僕は、端末で生放送が見られるサイトを開きつつも、開始まで紙の本でも読んでいようと思い、表紙をめくった。

その時だ。

それは、スクリーンがビビットカラーの紫一色に染まったところからはじまった。
驚いた、端末の故障をまず疑った。
俄に焦りを感じはじめていると、それは赤や青に明滅しはじめた。
かと思えば、緑や黄色にも変色し、しまいには茶色にくすんで、そのまま静止した。
ちょっど、様々な色の絵の具を混ぜたパレットのようである、と感じたものだ。
我に帰った僕は、端末の操作を試みた。
案外あっさりと操作はできた。
どうも、全画面化していたその放送の枠内部の矩形のみが、変色していたようで、スクリーンは無事、端末も無事。
僕はすぐにSNSで、記者会見について検索した。
出るわ出るわ、いくらでも同様の事象が報告されている。
しかも僕の母国語のみならず、外国の言葉の投稿も沢山あるようだった。
気になって開くとそれはこの国に住まない人間の投稿だった、それも遠い国だ。
いくつもの国で同じ現象が…?つまりあの放送はどう見ても異常だろうと、正気な放送だということか?
そう考えた、タイミングで急上昇キーワードの通知が出た。

「放送ジャック」
「電波ジャック」

息をのむ。
頬が綻ぶ。
そんなことがあるだろうか!
もしそうなら一人の当事者になれるなんて!
と興奮を覚える。

急いで、会見の放送画面を再び開く。
画面が変化している。
だから急上昇キーワードがポップしたのだ。
茶色かった画面は今度は一面真っ黒に変わっており、中央に白い字でただ一文。

疑え。
不老不死は完成している。

一体どれだけの人が信じたろうか、その一文を。
後で知ったが、放送ジャックは、その会見を映していた全世界のあらゆるデバイスのあらゆるチャンネルで起きた。
それも、スクリーンに表示された一文がその地域や人が常用する言語であったというから信じられない!
それほど広範で大規模なジャックが起きたことなんていままであっただろうか!
そんなことが技術的に可能なのか!?
可能であるとして、一体誰が、何のためにそんなことを?

流石にただごとではないと、多くの人間が思ったことだろう。
そんな薄寒い不気味さと、穏やかな昂りを与えて、そのままジャックは終了した。

あとに映ったのは慌てふためくスタッフたち
、困惑する記者、熱心に何かを書き殴る記者、状況を静観するカメラマン…。
会見広場はてんやわんやだ。

僕は感想を SNSやら掲示板やらブログやら…どこでもよいので書きたくてウェブページを遷移する。
しかし、どうにも、いくら待ってもどのウェブサイド表示されなくなってしまった。
ローカル側のネットワークの問題かと思い、様々なことを試すがそれでも無反応。
文字一文字の検索すらままならない。
仮説が浮かぶ。
ネットが混雑しすぎて、繋がりづらくなりつつあるのか?
と。

知識人で仲良しの友人に通話を試みるも、「回線が混雑しているために繋げることができない」という、初めてのトーキーを耳にする結果を得るだけだった。

いくら異常な事態とはいえ、こんなことがあるだろうか?
この現代に?
と疑問に思う。

仕方がないので席を立ち、クローゼットを掘り起こして、最早化石となりつつあったラジオを取り出し、その埃を綺麗に拭き取ってからスイッチを入れる。

驚くべきことだが、ラジオも混線が酷いようで音を拾えなかった。
電波ジャックがし易いのはラジオだときくが…。
つまりジャック犯は、通常できないような高度な電波ジャックを、いくつもの国に対して行い、かつ、少なくとも私の地域のラジオの電波ジャックも行なっているのか?
と考える。

それは本当に人間わざとは思えなかった。
それだけに、信憑性の高さを感じてしまう。

不老不死の完成という、与太話でさえも。

壁にかけた時計がふと目に入る。
そいつは間も無く午後11時を指し示そうとしていた…。


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