見出し画像

『オトシネマ 夏の怪談特集』~其の壱ひでちゃんの異変~ 短編オトシネマ(オーディオドラマ)脚本

「耳で聴いて心で感じる」オトシネマは、音の映画をコンセプトに、様々な音声作品をSpotify等の音声プラットフォームにて配信しております。

こちらのオトシネマ作品集【脚本アーカイブ】では、配信されている作品を文章の形でご紹介させて頂きます。

耳の不自由な方、聴くのが難しい環境の方も、是非こちらからオトシネマコンテンツをお楽しみ頂けましたら幸いです。

オトシネマ夏の怪談特集

『オトシネマ 夏の怪談特集』
  ~其の壱ひでちゃんの異変~

あらすじ
夏と言えば、怖い話。怖い話と言えば、怪談!
怪談師が身の毛もよだつ怪談話を披露する「オトシネマ夏の怪談特集」
今回は怪談師・ウエダコウジの友人に起こった実話怪談をご紹介!
実際に起こってしまったこの恐怖体験を、あなたは最後まで知ることができるでしょうか…。

(※以下Spotifyリンクよりオーディオドラマのご視聴が可能です。)



ウエダコウジと申します。どうぞよろしくお願い致します。


非常に暑い季節が来まして・・・
皆さん、肝試しに行ってみたいと思われる方、
いらっしゃるんじゃないでしょうか。

ただ僕としては、それは少し、
お辞めになられた方がいいのではないか。

そんな風に思う、話があるんですよね。


僕の友達のひでちゃんという男。

18歳の時に車の免許を取って、友達二人連れて、
色んな心霊スポット巡りに行っていたんですよね。


ある時行きましたのが、奈良県の北部にある廃墟。


ここは大学の友達の中で、

「まぁあそこは幽霊出るぞ。行く時は気を付けろよ。」

まぁそんな風に噂になっているような、そんな場所だったんです。



長い坂道をブー・・・っと走って行きまして、

見えてきましたら、ぼろっぼろの廃墟。

周りには草が生い茂ってましてですね、車を降りて、

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…


歩いて行きますと、
真っ暗でとても怖い雰囲気が漂ってるんです。

「あぁ~これは期待出来る!何かあるぞ!!」

胸を躍らせながら三人は歩いて行ったんです。


ドアをガラガラガラガラ。


・・・開いたんですね。

「さぁ、行こう!」と思った時に、
一つガッカリすることがあったんです。

その廃墟というのは、もう、かなり前に住民が居なくなったのか、
中が荒廃していてぼろっぼろだったんですよね。

つまりそれ以上、足を踏み入れる事が出来なかったんです。


友人「あぁ…ヒデちゃん、これはあかんで。もうこれは入られへんわ。」
ひでちゃん「あぁ、せやな。んーつまらんな、帰ろか。」


三人は肩を落としながら車に戻り、
そしてそれぞれの家に帰って行ったんですよね。


ひでちゃん「せっかく行ったのにつまらんなぁ…。どっか他探さなあかんなぁ。」

ひでちゃん、そんな風に不満をブツブツブツブツ呟きながら、
服を着替えまして、その日はベッドで休んでたんです。




どれくらい時間が経ってからでしょうかねぇ。


彼、フッと目を覚ますんです。


「…あれ? 今何時頃やろ?」

時計を見ようと思いますと、自分が普段より、少しこう、
視線が高いことに気付くんですね。

普段なら、ベッドの横に自分の学習机がある。


寝た状態でそれを見ると、

真横にそれが見えるはずなんですけれども、


その日に限ってはなぜかその机、

自分の視線よりも下にあるんですよ。


「…あれ?」

思えば家具も、まぁタンスですとか、自分よりも下にあるんですよね。


「・・・・・浮いてる?」


彼はこの状況が掴めなくって、
体をジタバタジタバタ、キョロキョロキョロキョロ、

周りを見渡した。

不意にベッドのところが目に入った時、驚きました。


ベッドで、自分が寝てるんですよ。

「え? ・・・どういうことや?」

と思っていると、

フッ!

体がもう一段階浮いたんです。


「え??」

また驚いていると、

フッ!

体が浮いた。

「なんやコレなんやコレなんやコレ……。」


逃れたいけれども彼は、そのまま

フッ、 フッ、

段階的にどんどんどんどん上に上がり続けていくんです。


「なにこれ…?」
と思っていると、不意に天井の方が見えた。


釘付けになったんです。
それは、彼のお部屋のカーテンレールの上の辺り。



にんまり笑った、赤黒い顔のおじさんが、

ひでちゃんの顔をじーっと見てたんですよ。



「うふふふふっ…ふふふふっ…。」

そんな笑い声が聞こえたかと思うと、フッ。

またひでちゃんの体が、浮く。


「うふふっ…。」

また浮く。


どうも、その笑い声と同時に、
彼はそのおじさんに向かって、まるで引き寄せられてるんですよね。

そうこうしている内に、もう自分の体は、
そのおじさんのかなり近い距離に来てしまっている。


「あぁ…あかん!このままではあのおじさんに当たってしまう。
これ以上近付くと何をされるか分からない。
怖い!逃げたい!!」


今まで以上にジタバタジタバタジタバタジタバタ動いた。

そして思いっきり身をたじろいだ時に…


彼は、自分のそのベッドの、
普段寝ている高さの位置に戻ってくることが出来たんです。


彼はそのままベッドを飛び降りて、台所に行って水を、
思いっきり飲んだ。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。
あれはなんやったんや、あれはなんやったんや……。」
そんな風に頭をグルグルグルグルグルグル回転させるけれども、
・・・分からない。


全く分からない。


彼はそれ以来、もう心霊スポットに行くことは辞めたそうです。


それからしばらくして、
まぁ彼の人生の中で特に怖いことは起こらなかった。

まぁ結婚もしてですね。子供も出来て。
とても幸せな日々を送ってるんです。よかったんです。

ちょうど昨年くらいでしょうかね。

僕はこのひでちゃんから久しぶりに、電話をもらったんですよ。


コウジ  「おぉ、元気?最近どうしてんねん?」
ひでちゃん「おぉ、コウジ。あ、俺なぁ、そうやそうや!家建てんねん今度。コウジも遊びに来てや。」
コウジ  「おぅ、ありがとありがと。ほんで、家どの辺なん?」
ひでちゃん「あぁ…せやなぁ。いくつか、場所は決まってんねんけどな。こことな、こことな、こことな。」

候補を言ってくれたんです。


・・・・・そこなんですけど。


かつてひでちゃんが、訪れた、

あの廃墟のほん近くやったんですよね。




彼、

今でも引き寄せられてるんですよ。



皆さん、心霊スポットに行くことは、おすすめしないです。


ありがとうございました。


作品制作キャスト・スタッフ

■語り手/怪談師:ウエダコウジ
■企画・収録・編集:松本大樹

■脚本編集/記事掲載:ニーナ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?