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【よもやま話】雑巾の絞り方

雑巾を絞るにはコツがあります。

しっかりと絞れた雑巾は当然水分量が少なく翌日ちゃんと乾いているものです。すると雑菌も繁殖しにくいから匂いにくい。比較的清潔なままボロボロに使い捨てることができるようになります。

コツと言っても『縦絞り』か『横絞り』かの違いでしかないのですが、当時小学生の狭い視界では縦絞りを理解して使いこなせているのは僕一人でした。

僕は掃除の時間になると仕事人として雑巾を使いこなし、職人として雑巾を洗い、絞ります。

自分の雑巾こそが最も清潔なまま汚れているのだという誇りは僕にとってとても高潔なものでした。

だから、気に入った友達には『縦絞り』を教えようとしました。
勇者が仲間を増やすような心持ちです。
高潔な魂を持つ仲間とともに悪(汚れ)を滅ぼす運命を感じたのですね。

しかしその運命は気の所為でした。

掃除に運命を感じるアホは僕以外にいませんでした。

僕はダークヒーローとして一人で『縦絞り』を続けることになったのです。

楽しいことを共有できる友だちは少ないものです。
ダークヒーローが学ぶ教訓はいつも悲哀に満ちています。
しかし、どこか美しいだと思います。

「雑巾の汚れが労働の証である」ことと同じように、「哀しみは優しさの証だ」である相反する隠された意思がダークヒーローにはあるのですから。

現在、僕は大人になっても『縦絞り』を続けています。

ダークヒーローは引退しました。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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