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【声劇シナリオ】恋をしていた。

内容

◆恋愛│結婚│同性愛
◆文字数:約9000文字
◆推定時間:40分

登場人物

◆珠緒:高校生、(タマオ)
◆拓実:新郎、珠緒の兄、(タクミ)
◆璋:高校生、(アキラ)
◆碧海:新婦、璋の姉、(アオイ)

スタート


珠緒 いつか大人になれたら
   そのときは綺麗に
   さよならをしよう。

◯拓実宅
 ――拓実、リビングで寛ぐ珠緒に話しかける。
拓実 「珠緒、兄ちゃんはこの度結婚することになった」
珠緒 「…………え。結婚?」
拓実 「なんだ? 結婚を知らないみたいな反応して」
珠緒 「いや、知ってるし」
拓実 「じゃあ何だよ」
珠緒 「いや、なんか実感湧かなくて。お兄ちゃんが結婚なんて」
拓実 「なんだよ。お前まで遊びで付き合ってたとか責める気か?」
珠緒 「ごめんごめん。おめでと」
拓実 「おう。サンキュ!」

◯学校・廊下・放課後
 ――珠緒、璋と雑談をしている。
珠緒 「ってことが、昨日あったよ」
璋  「あー、マジかあー」
珠緒 「え、璋聞いてないの?」
璋  「いや、聞いたんだけど実感湧いてなかった。珠緒の口から聞いてなんか今更実感湧いてきてさ」
珠緒 「わかる。実感湧かないよね」
璋  「拓実先生、他なんか言ってなかった?」
珠緒 「なんかって?」
璋  「なんかあんだろ? 元生徒と結婚するんだし。両家顔合わせ? 挨拶気まずかったとかさ」
珠緒 「そこらへんは璋こそ知らないの? そっちの家に挨拶行ったんだから」
璋  「当日、ちゃんと追い出されたよ。子どもが詮索するなって。言っただろ?」
珠緒 「そうだっけ?」
璋  「お前ほんとそういう所あるよな」
珠緒 「ごめんて」
璋  「はあ……。まあいいよ。そういや、姉貴が話したいことがあるって言ってたぜ」
珠緒 「碧海さんから? なんだろ? 先週一緒に買い物行ったばかりなんだけどな」
璋  「仲いいよな、お前ら」
珠緒 「まあね。羨ましいなら。お兄ちゃんがいるけど?」
璋  「やだよ。なんでプライベートまで」
珠緒 「お兄ちゃんは璋のこと大好きみたいだよ」
璋  「あっちの立場と一緒にすんなよ。分別付けてくれないと困るっつの」
珠緒 「男子だとそんな感じか」
璋  「珠緒、ほんと分かってる? 俺の立場が」
珠緒 「え? なにが?」
璋  「……はあ。もういいよ。どうせ今日もさっさと帰るんだろ?」
珠緒 「流石に部活終わりまでは待ってられないよ」
璋  「そりゃ分かってるって。……じゃ。俺、稽古行ってくるから」
珠緒 「うん。いってらっしゃい」
璋  「おうッ。またな」

◯拓実宅
 ――碧海、拓実に璋と珠緒の関係について話している。
碧海 「って感じみたいなんだけど、どう思う?」
拓実 「どうって?」
碧海 「……はあ、鈍いなあ」
拓実 「えっ、ごめん。どういうこと?」
碧海 「そんなに焦らなくていいよ。私達のことじゃないし」
拓実 「あ、いや。珠緒も璋も同世代に比べたらかなり大人っぽい方だし、そんなに心配はいらないんじゃないかなあ……」
碧海 「十も離れてたら恋愛感覚は大分遠いか……」
拓実 「悪かったって。でも……」
碧海 「ウチの家系は貴方よりも繊細なのっ。私だって別にブラコンじゃないし、珠緒ちゃんのことはもちろん好きだけど、それでも、璋のこと蔑ろにし過ぎだと思う。高校生の恋愛であんなに冷めた付き合い方ないでしょ」
拓実 「そうなのかな?」
碧海 「そうなの。はあ……。やっぱり結婚もう少し待ってあげたほうが良かったかな……」
拓実 「えっ、いやそれはちょっとマズイだろ」
碧海 「分かってるわよ。でも、可哀想でしょ。別れた恋人と結婚式会場で顔を合わせないといけないなんて」
拓実 「えっ、そんなに別れそうな訳?」
碧海 「安心して。私が不満なときはもっとはっきり言うから」
拓実 「お、おう。よろしくお願いします」
碧海 「はい。よろしくお願いされます」
拓実 「あ、俺から珠緒に……」
碧海 「絶対やめて」
拓実 「はい……」
 ――珠緒がチャイムを鳴らす。インターホンから声が聞こえる。
碧海 「あ、珠緒ちゃーん」
珠緒 『お邪魔しまーす』
碧海 「いらっしゃーい。入ってきてー。……いい? 絶対言わないでよ」
拓実 「了解です……」
 ――珠緒、部屋に入ってくる。
珠緒 「碧海さん、お邪魔します」
碧海 「うん。いらっしゃい」
拓実 「いらっしゃい。よく来たな」
珠緒 「うん。碧海さん結婚おめでとう」
碧海 「ありがと。嬉しい」
 ――拓実、立ち上がりキッチンへ向かう。
拓実 「寒かったろ。何か飲むか?」
珠緒 「えっと、紅茶。碧海さんと同じの」
碧海 「ん? これルイボスティーだけどいい?」
珠緒 「紅茶じゃないの? どんな味?」
碧海 「はい。一口どうぞ。もう温いけど」
珠緒 「……ん。なんか味は薄めだね」
碧海 「優しい味だよね」
拓実 「どっちにする?」
碧海 「今日はルイボスティーにする」
拓実 「はいよー」
 ――少し間をおいて碧海が話し始める。
碧海 「……ね、珠緒ちゃん。スピーチしてみない?」
珠緒 「え?」
碧海 「結婚式の友人代表スピーチ」
珠緒 「え、ええ!?」
碧海 「どうかな? 式は大きいものじゃないし、半分くらいは顔合わせたことある人だろうからさ」
珠緒 「でも、私話す内容なんて……」
碧海 「別に即興で話す訳じゃないからさ。手紙書いて読み上げるってだけ。だけなんて言ったら失礼なのかな?」
珠緒 「うーん」
 ――拓実がルイボスティーを差し出しながら言う。
拓実 「別に無理にやらなくてもいいからな」
碧海 「ちょっとぉ」
拓実 「こういうときのお前の圧は強いんだよ」
碧海 「あー、うん。ごめん……」
拓実 「断ったからってすごく困る訳じゃないし、こういうのはちゃんと考えて返事しとけ」
珠緒 「うん。考えとく」
碧海 「ごめんね」
珠緒 「ううん、平気。こっちこそごめん」
拓実 「まあ、困るっていったら、式場をどこにするかなんだよなあ」
碧海 「あ、そうそう。今回ほとんど親族だけだからさ。大きさがね」
珠緒 「へぇ~」
碧海 「ないことはないんだけど。小規模なのにかしこまり過ぎても、とか考えちゃってさ」
拓実 「困ったら店を貸し切りにしてくれるっていう先輩もいるんだけど、完璧に居酒屋だしな」
珠緒 「え、居酒屋?」
碧海 「そ。居酒屋」
珠緒 「居酒屋はちょっと……」
拓実 「だよなぁ」

◯学校・教室・放課後
珠緒 「ーーお二人の末永い幸せを心より願い、私のスピーチとさせていただきます。……どう?」
璋  「んー……。長いな」
珠緒 「ええー」
璋  「姉貴にはネタの面白みは伝わるだろうけど、色々要素が多すぎて他の人には伝わりにくいと思う」
珠緒 「碧海さんに伝わるなら良くない?」
璋  「良くないだろ。式なんだから、皆に伝わらないと」
珠緒 「そう?」
璋  「あのな、儀式ってのはこれから私達は別の物に変わりますよ、皆もそれを認めてね、ってことを示すためのものなんだから。用意するものはそれ相応のTPOに基づいてないといけないの」
珠緒 「なにそれ。メチャクチャ大人なこと言ってるじゃん」
璋  「ま、受け売りだけどな」
珠緒 「なんだ。誰の?」
璋  「拓実さんの」
珠緒 「えっ、嘘!?」
璋  「お前にも絶対話してる内容だと思うけどな」
珠緒 「そんなはずないと思うけど。ってか、お兄ちゃんと話してるの? 気まずいから話さないようにしてるって言ってたじゃん」
璋  「進路相談してもらってる。お前の前ではどうか知らないけど、ちゃんとあの人先生してるんだぜ」
珠緒 「へえ。そうなんだ。もう慣れたの?」
璋  「気使ってるに決まってんだろ。学校の先生が元生徒と付き合ってる。んで、弟がそれを理由に先生を避けてるってなったら、フツー周りの大人はどう思うよ?」
珠緒 「そりゃそうだけど、お兄ちゃんそんなに気にしてないっぽかったよ」
璋  「お前が気にしてなかっただけだろ。興味ないことにはホント無頓着なんだから」
珠緒 「やな言い方」
璋  「伝わったなら良かったよ。反省したなら俺を見習って将来のこと考えるんだな」
珠緒 「進路相談? やだなー」
璋  「……実際相談した方がいいと思うけどな」
珠緒 「でも、なんも実感湧かないんだよね」
璋  「だからだよ」
珠緒 「え?」
璋  「珠緒は少し将来のことちゃんと見ようとした方がいい気がする。最近は特に」
珠緒 「そう?」
璋  「ちょっと真面目な話するか?」
珠緒 「なに? 怖いんだけど」
璋  「別に怒ったりしないって。でも、真剣に考えて答えて欲しい」
珠緒 「うん」
璋  「……珠緒は将来俺と結婚することが想像できるか?」
珠緒 「えっ?」
璋  「真剣に考えてみてくれ。して欲しいとか言ってるんじゃなくて想像できるかってだけ。どうだ?」
珠緒 「…………分かんないよ、そんなの」
璋  「ん。……ありがとな」
珠緒 「どうしたの? 急に。璋は私が変だって思ってるみたいだけど、璋の方が最近はらしくない感じするよ」
璋 「……ごめん。悪かった」
珠緒 「別に結婚するとか想像つかないけど、でも璋が一緒にいないのとかも、私、想像つかないしさ。……なんていうか……ごめん。やっぱり私が悪かったかも」
璋  「いや、変な話持ち出してホント悪かった。うん。でも、言質取ったからな」
珠緒 「えっ」
璋  「別れるの想像つかないんだろ? なら、まだ付き合っていようぜ。俺、お前のこと好きだし。あと、新婚夫婦に気を使わせたくないしな」

○学校・進路相談室・別の日
拓実 「第一志望K大学ね。大分厳しいだろうと思うよ」
璋  「一念発起したんで。ぶっちゃけ浪人覚悟です」
拓実 「覚悟しちゃダメだろ。浪人の話はちゃんと親御さんとも相談するように。負担でかいんだから」
璋  「ちゃんとしましたよ。浪人は避けてくれって言われました」
拓実 「まあ、私立だしな。都会で金かかるのは間違いないし。気合い入れて勉強追い込まないとな」
璋  「我儘言ってますから頑張りますよ」
拓実 「受かったら、向こうで住むつもりか?」
璋  「そうですね。通えないわけじゃないけど通学に毎日何時間もかけるのはしんどいですから」
拓実 「俺も大学はあっちの方だったから、受かったらいい飲み屋紹介するよ。あ。もちろん行くならノンアルな」
璋  「はいはい。分かってますよ」
拓実 「璋はしっかりしてて助かるよ」
璋  「それ、先生の妹と比べてます?」
拓実 「当然。あいつ昔っから夢とか将来のこととか話したことなかったし。多少なりとも欲とかないもんかね。指導しようがない。あ、ギャグじゃないぞ」
璋  「分かってますよ。そういうの気にするから、姉貴に言われるんじゃないですか?」
拓実 「それはある」
璋  「尻に敷かれるってやつだ」
拓実 「内緒で女子会とかだったら、現在進行系だぜ」
璋  「ははっ。何誇ってんすか。……珠緒は就職しそうですかね?」
拓実 「たぶんな。ギリギリまで答えないで。年貢の納め時みたいに就職しそうだ」
璋 「すげー分かる」
拓実 「なんなら連れてってくれてもいいよ」
璋  「そりゃ無理でしょ。俺そこまで好かれなないですもん」
拓実 「そんなことないでしょ」
璋  「いやマジですよ。それこそ俺と付き合う時だって年貢の納め時みたいに了承してましたし」
拓実 「うーん。いやまあでも、璋君と他の奴とじゃ違うでしょ」
璋  「だとしても、あいつは俺と結婚したいとは思わないはずですよ。あいつは俺が県外に出るつもりってことも知らないですし」
拓実 「そこは自分から話さなきゃ」
璋  「……本当は訊いてこないだろうなって分かってるから、言ってないところはありますね。俺からは訊いてるんですけど。まあ、答えは考えてないとか分からないとかばっかりですけど」
拓実 「ん、いやあ~。そうだなぁ……」
璋  「あ、あいつには言わないでくださいよね」
拓実 「お、おう。分かってる」
璋  「あざっす。……ま。要は別れるかもしれない要素は元々ありましたってことですかね。もし別れることになったとしても、お二人の関係が原因とかは絶対ないんで」
拓実 「あー。……んーまあ、上手くいえないけど、妹にとってお前はかけがえのない存在だってのは、間違いないと思う」
璋  「……そうですか?」
拓実 「ああ、そういうのは当事者より俺くらいの距離のほうが分かるもんだ」
璋  「……そうっすね。ありがとうございます。」

◯カフェ・昼食
 ――珠緒と碧海がメニュー表を見ている。
珠緒 「私、このハンバーグセットにしよ」
碧海 「はや。ちょっと待って」
珠緒 「後でこっちのケーキも頼も?」
碧海 「おっけーおっけー。なんでも注文したまえ。……それじゃこのきのこクリームパスタかな」
珠緒 「はあい。……あ、店員さん。これとこれお願いします」
碧海 「珠緒ちゃん、飲み物どうする?」
珠緒 「えっと、メロンソーダで」
碧海 「私は、このスムージーでお願いします。はい、お願いします」
珠緒 「お願いします」
 ――店員が去るのを待って話し始める。
珠緒 「スムージーってなんだか意識高いですね」
碧海 「まあねー。ぼちぼち意識高めておこうかなって。一口飲んで見る?」
珠緒 「ありがと」
碧海 「ふふふ。あーでも、やっぱり最近疲れたよぉ、珠緒ちゃん」
珠緒 「お疲れ様。碧海さん」
碧海 「結婚式の準備って意外と大変なんだよね。なんだかんだ結局拘っちゃってさ」
珠緒 「居酒屋でやるかもしれなかったのにね」
碧海 「あそこは二次会じゃないけど、後日会みたいな感じでまた行くかな」
珠緒 「そういうのって男の人が結婚式前日に男友達で集まってやってるイメージだなあ」
碧海 「あー、独身最後の日ってやつだ」
珠緒 「そうそれ」
碧海 「昔の漫画とかであるよね。まあ、今は忙しいから後日会なの」
珠緒 「碧海さん、仲いいよね。お兄ちゃんと」
碧海 「そんなの、結婚するんだし当たり前でしょ」
珠緒 「ん。それもそっか」
碧海 「なにー? 私の代わりに珠緒ちゃんがマリッジブルー? お兄ちゃん取られて寂しかったりするの?」
珠緒 「ふふっ、別にいらないです」
碧海 「ちょっとは寂しがってあげなきゃ、可哀想じゃない?」
珠緒 「いらないものはいらないですもん。全部貰ってください」
碧海 「ちゃんといいも所あるんだよ。否定しないで話聞いてくれるし、言う事結構聞いてくれるし、それに、実はちゃんと大人だし」
珠緒 「大人ですか? お兄ちゃんが」
碧海 「そうだよ。年の差でそう感じるところもあるかもしれないけれど……。あ、あと教師だからかもね。子どもを子ども扱いしないところに、最初惹かれたのかも」
珠緒 「それってどういうこと?」
碧海 「あの人と一緒なら私はちゃんとした大人になれるって思わせてくれたのかな。大人が子どもにするみたいに誤魔化すんじゃなくて、一人の人間として扱ってくれる。それが心地よかったの」
珠緒 「別にしっかりしてるようなイメージはないけどな」
碧海 「本当にしっかりしている大人なんてめったにいないよ。子どもには早いとか言ってカッコ悪いところを見せないようにしてるだけだもん」
珠緒 「そんなもんなんだ」
碧海 「私、十八歳とかでもすごい大人のお姉さんだと思ってたもん。料理も社会常識も大体わかってるみたいな。今でも当時の想像してた十八歳より遥かに能力低いし。何なら今でも夜更かししてゲームしちゃうし」
珠緒 「色違いのキャラ見つかんないって通話してたよね」
碧海 「そうそれ。そんな感じ。精神年齢はまだまだおこちゃま。そっちの気分のほうが楽しいし。将来自分がどうなるのかなんて分かんない。分かんないから不安になる」
珠緒 「不安か……」
碧海 「どう? 不安にならない?」
珠緒 「なるよ。不安になる。大人になるって分かんないし」
碧海 「だよねー」
珠緒 「……正直、驚いてます。碧海さんもそんなこと思うんだって」
碧海 「じゃあ、私も少しは大人になれたってことかな。少し成長」
珠緒 「大人かあ」
碧海 「上手に大人になれなくてもどうせ時間が経てば周りは大人扱いし始めるんだ」
珠緒 「隠してたくせにって思うとなんか理不尽な気がしてきた」
碧海 「ホント。でも、まあ避けられない。大人になっちゃう。ってなわけで、どうせ大人になるなら、拓実君と一緒がいいと思ったの」
珠緒 「……そっかぁ……」
碧海 「どう? こんな恋愛観」
珠緒 「なんか、碧海さんらしいなって思った。腑に落ちる感じがする」
碧海 「そっか。なら良かった」
珠緒 「……」
 ――料理が運ばれてくる。
碧海 「あ。パスタ、私です」
珠緒 「……どうも」
 ――店員が去るのを待つ。
 ――碧海、スムージーを一口。
碧海 「わ。思ったより濃いや、スムージー」
珠緒 「どろどろ?」
碧海 「うん。はい、一口」
珠緒 「ん。ありがと……」
 ――珠緒、スムージーを貰い一口。
碧海 「…………璋とは最近どう?」
珠緒 「え、璋ですか?」
碧海 「うん。珠緒ちゃんから璋のこと聞くの滅多にないじゃない? たまには訊いてみようかなって」
珠緒 「うーん。そんなに変わらないかなとは思うんだけど」
碧海 「ふうん」
珠緒 「あ、でも。ちょっと大人っぽくなった気もするかな」
碧海 「おっ、どんな感じなの?」
珠緒 「将来のこと考えてるか? って言ってました。ちょっと説教臭い感じ」
碧海 「あー、そうなんだー……」
珠緒 「なんだかちょっと凹みました」
碧海 「んー、うん。確かに説教臭いのは良くない。ダメだねー、あいつは」
珠緒 「なんというか……、先に大人になっちゃったんだーって。おいてかれたような気がして、複雑な気分です」
碧海 「……璋と珠緒ちゃんずっと一緒だったもんね。急に変わったらそりゃ戸惑うよね。でもこの時期の男の子は急に大人びるから。まあカッコつけてる部分もあるだろうから、深く受け取りすぎなくてもいいと思うよ」
珠緒 「うん……そうなのかな……」
碧海 「寂しい?」
珠緒 「……分からないです」
碧海 「そっか。……分かった。じゃあ、こうしよう」
珠緒 「え?」
碧海 「私、結婚式でメチャクチャ幸せになるよ」
珠緒 「……え、なんですかそれ」
碧海 「こういうイベントは人を変えるくらいインパクトあるものなの。というか、そのくらい私は幸せに式を挙げます」
珠緒 「……はい」
碧海 「そしたら、珠緒ちゃんにもなにか影響をあげられるかなって」
珠緒 「……ふふっ、そっか…………ありがと。碧海さん」
碧海 「任せといて。珠緒ちゃん」

◯結婚式当日
 ――珠緒、友人代表スピーチ。

珠緒 ご紹介にあずかりました。新郎の妹、珠緒と申します。
   碧海さん、お兄ちゃん、ご結婚おめでとうございます。
   僭越ではございますが、お祝いの言葉を述べさせていただきます。
   大変緊張しているので、手紙を認めてきました。ご容赦ください。

   碧海さんと出会ったのは私が小学生に上がった頃でしたね。あの頃から登下校を一緒に手を引いてくれる素敵なお姉さんでしたが、その思いは今でも変わりません。美人で素敵でかっこいい大人のお姉さんです。

   私が悩んでいる時、それこそ受験や将来のことを悩んでいる今も、優しくアドバイスしてくれました。
   高校生の私には上手く言えないような将来への不安があります。漠然とした不安なので、説明も難しいです。でも、碧海さんは私の気持ちを汲み取って「分かるよ」って言ってくれました。ずっと優しく一緒にいてくれた碧海さんの言葉だから、私はすごく救われたように思います。
   碧海さんは飾らず気安く、接してくれました。けれど同時に私の前では必ず優しい大人でいてくれました。私が小学生の頃も、中学生の頃も、今も。
   いつだって誰かへ思いやりを持ち続けていられる、碧海さんだからこんなに、綺麗なお嫁さんになったんだなって思いました。きっと素敵な家庭を築かれることと思います。
   これからも、仲良くしてください。
   お兄ちゃんをよろしくお願いします。
   お兄ちゃんも碧海さんを幸せにしてください。
   お二人の末永いお幸せを心より願い、私のスピーチとさせて頂きます。

◯珠緒の家・夜
 ――珠緒、璋に電話をかける。
璋  「もしもし」
珠緒 「もしもし、璋……」
璋  「よう。今日のスピーチ良かったな」
珠緒 「うん。ありがと」
璋  「姉貴以外にも泣いてる人もいたぜ。かなり良かったと思う」
珠緒 「うん」
璋  「……よく頑張ったな」
珠緒 「うん……」
珠緒 「璋」
璋  「なんだ?」
珠緒 「ごめん」
璋  「気にすんな」
珠緒 「そうじゃないの。私、私……」
璋  「うん」
珠緒 「今日、すごく苦しかった。お兄ちゃんと碧海さんの大切な日なのに。ちゃんと心から祝うことができなかった」
璋  「そうか」
 ――珠緒、泣き始める。
珠緒 「ごめんね。私、もう駄目だ」
璋  「大丈夫だよ。知ってた」
珠緒 「え……」
璋  「ずっと一緒にいたんだ。分かるよ」
珠緒 「ごめん……。ごめんなさい……」
璋  「……」
珠緒 「私、碧海さんのことが、好きだった」
璋  「うん」
珠緒 「ずっと、ずっと、好きだった。この気持ちが、好きだって分からないままで。今更、結婚して……遠い人になったって分かって。今更……」
璋  「……頑張ったな」
珠緒 「ごめんなさい。ずっと、ごめんなさい。今更……」
璋  「分かってる。いいんだ。気にするな」
珠緒 「うっうぅ……」
璋  「大丈夫だよ。珠緒はちゃんと二人を祝えてた。二人ともちゃんと幸せに結婚できた」
珠緒 「……うっ……ぅ」
璋  「俺たちはまだ大人じゃない。ゆっくりでいいさ。ゆっくり大人になっていこうぜ」
珠緒 「うん。ごめんなさい。本当にごめんなさい」

璋  もうやり直せない恋だった。
   知っていたのにどうしようもなかった。
   後は枯れるだけと分かっていても
   捨てることの叶わない脆い花。
   絶対に敵わない恋も、
   育んだ大切な思い出も、
   これでおしまい。

   いつか大人になれたら
   そのときは綺麗に
   さよならをしよう。
   俺達は、恋をしていた。


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