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掌編小説

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#ホラー

【掌編小説】夢の話

 かつん……かつん……  私は階段を降りていた。  かつん……かつん……  赤茶けた螺旋階段だ。  私の履いている靴は大して固くないのに、階段の音はいやらしく響いていた。水が滴っていたからだろう。上の階段の隙間からも、赤茶く汚れた水が落ち跳ねた。  かつん……かつん……  手すりに触れると錆が水の膜を突き破る。  ザラザラと、固く痛々しく、剥がれていく。  ただ、気持ちだけが静かだった。  ぐるぐると階段を降り続ける度に、溺れるような酔いが頭を占めていき、鉄錆の音も、水音も遠

【掌編小説】おにごっこ

 いや、そんな畏まった感じ出さんといてや。村の儀式とか言ったってそんな怖い風習とかやないから。魔除けみたいなもんよ。婆ちゃんも笑ってたやん? まあ、あの笑い方は癖やからさ。  子供の頃、鬼ごっこってやったやろ? まあ、色鬼でもケイドロでもなんでもいいわ。鬼がいる遊び。うちの村ではな、遊び終わると鬼はその子どもに一匹取り憑くって言われとるんよ。鬼役を皆で演るんやから一匹くらい宿ったってお話としてはおかしくないやろ?  もちろん子どもが演じて宿った鬼やから大した悪さはせん。でも、

【掌編小説】美少年と唾

 その少年は美しかった。  白く薄い肌が弱々しく見えるくせに活発でよく笑う男の子だ。  僕の家の近くに引っ越してきたその家族は、全員少年と同様に美しく、上品で大きな家に住んでいた。貿易商を営んでいる主人は外国の人で使用人から旦那様と呼ばれていた。そう、使用人がいたのだ。  しかし、気さくで近所と言うこともあってか、家に招待されることもあった。私服でお邪魔するのは気が引けたから、訪ねるときはいつも学校の制服で行った。そこが、良かったらしい。真面目な学生だと評価を受けて、次第に僕

【掌編小説】ふかふか植物

 とある植物園では、新しい植物が開発されました。  その名も『ふかふか植物』です。  ふかふか植物の葉っぱはとても大きく、ぽよんぽよんのふかふかです。  植物園の研究員さんがふかふか値を測定するためにふかふか植物に座ってみると、効果ばつぐん。その後24時間連続で働き続けました。  次に、研究員さんはふかふか植物を枕にして眠る実験をしました。すると、やっぱり効果ばつぐん。連続48時間も眠ってしまったのです。 「すごいぞ、ふかふか植物といると体がぐんぐん元気になるぞ!」  どうや