吹奏楽

僕は中学生の頃、吹奏楽部に所属していた。
理由なんてものはなかった。譜面なんて見たこともないくらい音楽とは無縁の人生だったが、中学校が部活に強制的に加入しなければいけない学校だったので、当時トランペットを持ってた友達に便乗して体験入部にいったら、あるパートの先輩に捕まったのがきっかけだ。がっつりクラスと名前聞かれてもう逃げられなかったというか。

そんなこんなで楽器を倒して先輩を泣かせたり、退部寸前になったり、色んな人の恋バナを聞いてワクワクしたりしながら中学校、そして吹奏楽部の三年間を過ごした。一番中学校が人間っぽい生活してたかなと思う。あの子いいなーって思ったら、でもその子のことが好きな人が当時仲いい人にいて。そっちのほうが付き合い長いから結局無理なのに、女の子の方は割と絡んできてくれて「おう、どうすんねんこれ」と思ったのもかなり懐かしい、そんな中学校時代だった。

高校時代にたいした思い出がない僕は、非常に中学の思い出が強い。
その一つが、冒頭で触れた吹奏楽部での思い出なのである。中学一年生から夏の吹奏楽コンクール、アンサンブルコンテストと、開催される大会は全部出場させてもらった。このときさせてもらった貴重な経験はこの先も必ず無駄にはならないと思っている。その頃の顧問には感謝しかない。

吹奏楽にはすごい大事なことをたくさん教えてもらったような気がする。
すべて挙げろと言われれば難しいところではあるが、集団で一つのものを作り上げる大変さというか、大切さというかそんなものを主に学んだ。
コンクールや定期演奏会で、一つのものをみんなで完成させた瞬間が最高にクセになる。もちろん練習は楽なものではない。その日の合奏に間に合わせるために一生懸命個人練習をするが、自分の技術が追いつかない。合奏で指摘されて怒られて、なんて日常だった。同じパートの人に教えてもらったり、まだ「後輩」というブランドがあったときには先輩に教えてもらったりもした。そんな日々が重なり「こんなんやってられっか」なんて思ったことは何度もある。だけど、やっぱり合奏は楽しかった。合奏だけを目当てに吹奏楽を続けていた時期もある。それくらいあの達成感が自分にとって不可欠なモノになっていたのかもしれない。

そんな達成感は今でもたまに恋しくなる。
高校で吹奏楽続ければよかっただろ、と読んでいる方は思っているのだろうが、もちろん続けるつもりだった。
僕はある公立高校に吹奏楽目当てで進学しようとしていたのだが、倍率に負けしていまい私立への進学を余儀なくされた。顧問から裏に電話番号が書かれた名刺をもらうという、若いくせにやたら昭和色の強い熱烈オファーで進学した私立高校で吹奏楽部に所属したが、モチベーションは公立高校での活動に向かっていた為か、そう長続きはしなかった。
理由を並べればすべて言い訳になってしまうのだろうが、あえて並べていこうと思う。

一番は部活内の雰囲気が最悪だった、ということだ。
部内での縦のつながり(他学年)はいいのに、横のつながり(同学年)が悪すぎる。我々の前では仲良く振る舞っているが、隠しきれていない。正直いるだけで反吐が出る。
あとは、なぜかいつまでもいる三期生の先輩。部の雰囲気があんなんだったのは正直この人のせいなんじゃないかと思っている。幹部なんて機能していない。結局その三期生がいる限り顧問を除くトップはその人なのである。口では邪魔をしないなんて言っていても学生当事者からしたらその先輩に逆らうわけにはいかない。そんな最悪な状況でいい活動ができるか。僕はできないと思う。吹奏楽が字の通り「吹いて奏でて楽しむ部活」なのであるのなら、僕はそれをこの学校では到底達成できそうになかった。

そんなこんなで部活を退部しアルバイトを始めていたが、吹奏楽自体はずっと好きなまま。吹奏楽をする妹や他校の定期演奏会などを見ているとどうしても血が騒いできてしまう。一時期吹奏楽団への所属も考えたが、バスクラリネットを購入する金なんてあるはずがない。諦めざるを得なかった。

最後の吹奏楽から三年近くが経つ。
今こうして冷静に考えてみると、やはり吹奏楽は絶対に好きだ。だが、演者としてステージで得られる達成感は、中学校という個人的に人生で一番と言っていいくらい濃い人間関係を築く場所で得た仲間との経験であるからこそ、なのではないかと思う。
高校3年間、妹が出場していた夏の吹奏楽コンクールの中学校部門をみていて、より強くそう感じた。

人生のうちのそんな貴重な数年間に、僕は吹奏楽という文化を通じて非常に濃い経験ができた。この経験は僕のかけがえのない思い出であり、誇りである。

大学は中学高校のように、毎日部活は当たり前、夏休みは部室に缶詰。なんてことはなくなる。「部活」というより「趣味」という色が強い活動になってしまうことは避けられないのだろう。
だからこれからは、聞く方として吹奏楽を楽しむ。そう決めた。

来年のコンクールも見に行こう。